龍殺しの少女 終章


 アタシとマリアは、ルアス酒場で仲良くテーブルに座りながら食事をしていた。

 もう、あれから二週間が経過しようとしていた。

「はい、あーん」

「ん、あーん」

 周囲の視線を感じながら、マリアに差し出された鶏肉のから揚げを口にいれる。

 アタシの右腕が使えなくなってから、マリアは色々と世話をしてくれた。

 この食事シーンも その一つ。

 左手は動くから大丈夫といっても聞き入れてくれず、

 マリアに食べさせてもらうという、なんとも恥ずかしいことになったのだ。

 始めは酒場の親父を始め、顔見知りの客全てに冷やかされたものだが、

 冷やかされる度にケリをくれてやったら、ようやく何も言わなくなった。

 好奇の視線だけは、甘んじて受けようじゃないの。

 酒場の親父は、アタシがマリアとパーティを組んだことがよほど嬉しかったらしく、

 まるで自分のことのように喜んでいた。

 これでお前も一人前だなと、髪がくしゃくしゃ になるまで撫でられてしまった。

 アタシも、意地を張ってパーティを組む必要なんて無い、

 と言っていたことを忘れ、皆にマリアとの冒険を聞かせた。

「美味しいですか?」

「うん」

 最近はよく、マリアはいつまでアタシの傍にいてくれるんだろうか、

 なんてことを思うようになっていた。

 右腕が治ったら、離れていってしまうのだろうか。

 それはちょっと寂しい。

 できるなら、もっと・・・・・・。

「ねぇマリー、右腕の調子はどうですか?」

「ぶっ」

 変なことを考えていたアタシは、マリアの放った言葉に心臓が跳ね上がった。

「えっ、ちょ、調子はよくなってきたかな。だいぶ動くようになってきたし」

 アルケミーの秘薬と、マリアのリカバリーのおかげで、軽いものなら掴めるようになっていた。

「そうですか・・・・・・」

 マリアは何故か寂しげに微笑んだ。

「右腕が治ったら、また何処かへ冒険に行くのですか?」

「・・・・・・そうだね、きっと行くと思う」

「危険ではありませんか?」

「んー、そりゃ安全なことばかりじゃないだろうね。

今回みたいに命を落としそうになることだってあるかもしれない」

「一人で行くのですか?」

「え?」

「き、危険なところへ行くのなら、パートナーが必要ではありませんか?」

 マリアが、顔を赤く染めながら言った。

「え、えっとそれって・・・・・・」

 アタシは思わず立ち上がった。

 マリアの言葉に、アタシの期待が高まる。

「もし、マリーがよければ私も一緒に」

「ま、待って待って!」

 アタシは慌ててマリアの口を塞いだ。

「その言葉はアタシに言わせて」

 マリアが頷くのを見てから、アタシはマリアの口から手を離した。

 そして、大きく深呼吸をし、マリアを見つめて言った。

「ア、アタシは、これからも冒険し続けると思う。

怪我だってたくさんするに決まってる。

そのときに聖職者がいてくれたら、どんなに助かるかわからない。

アタシはそんなときに傍にいてくれるのがマリアだったら嬉しい。

でも、そんなことじゃなくて、ただマリアともっと一緒にいたい。

マリアと別れたくないの。

アタシが行くところは危険な場所が多いと思う。

一緒にいると、危険な目にあわせちゃうかもしれない。

アタシ一生懸命守る。

マリアを守って見せるから。

だから、アタシについてきて欲しい」

 アタシは一気にまくし立て、マリアに手を差し出した。

「・・・・・・はい。マリーにどこまでもついていきます」

 マリアは、今までで見た中で一番の笑顔をすると、ゆっくりとアタシの手をとった。

 その日、アタシに初めてのパートナーが出来た。

「ところで、マリー。前から聞きたかったことがあるのですが」

「何?」

 二人で酒場を出たところで、マリアが不意に尋ねてきた。

「マリーはあのとき、何をしにネクロ教団に来ていたのですか?」

「え、あのとき? えーと、はははっ」

 誇れる理由じゃないから、言いにくいなぁ。

 でもマリアには嘘をついたりしたくないし。

 アタシは覚悟を決め、答えた。

「ちょっと、ネクロ教団が溜めてるお宝を頂戴しにね」

「まぁ、そうなんですか!?」

 案の定マリアは、口を開けて驚いていた。

「しかし、あの戦いの最中では宝を手に入れることは出来なかったでしょう?」

 確かに、そんな暇はなかった。でも・・・・・・。

「いやー、宝は手に入ったようで、入ってないというか」

 ハイランダーの心臓からでてきたヒスイは、

 アルケミーに治療費として持っていかれてしまったけれど、

 それ以上のものは手に入れることが出来た。

「どういうことですか? 何か持ち帰ったりできたのですか?」

「いやー、持って帰ってきたっていうか。まぁ、いいじゃない」

「よくないですよ、気になります」

「あー、今日もいい天気だねぇ」

「ごまかさないでくださいっ」

 マリアが体をつねってくる。

 アタシは笑いながら空を見上げた。

 宝は手に入った。

 だけど、恥ずかしくて言えるわけないじゃない。

 マリアという、かけがえのない宝を手に入れることができた、なーんてね。

 見上げたルアスの空は、雲ひとつ無く、青くどこまでも澄んでいた。


 龍殺しの少女 〜終わり〜