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 事の顛末はこうだった。
メント文明の遺跡が発見されてからと言うもの、ルアスは様々な場所の探索を開始した。
昔からカプリコの聖地と呼ばれる場所は、冒険者の中でも有名である。
様々な者たちがその場所へ向かったが、今までその場所へ辿り着いた者はいない。
いや、辿り着いた者はいるのかも知れない。が、その者たちは帰らぬ人となっている。

カプリコ族にもいろいろな種族があり、カプリコ族やハンドカプリコ族は比較的
人間に友好的だ。
元々臆病な彼らは争いをあまり好まない。
しかし、好戦的なカプリコ族もいるのだ。
それらが、その聖地を守護しているのだ。
人間を見るなり襲ってくるのは間違いない。
大抵の冒険者が、このカプリコ族により撤退を余儀なくされたり、
最悪の場合命を落とす。

ルアス王がそこに眼をつけない筈はなかった。
カプリコが聖地と拝める場所には、必ず古代文明の手がかりがあると
睨んだのである。

レットは、エルヴィスの対面の椅子に腰をかけ、珍しく真面目な口調で話す。
「傭兵部隊は、カプリコ族を難なく制圧できたらしいんだがな
その先にいた未知なるモンスターに無残に散っていったらしい・・・
何人かは、命かながら逃げ帰ってきたおかげで始めて聖地の情報を
得る事も出来たがな」
エルヴィスは思いもよらなかったクエストの話に血が滾るのを感じた。
今日は眠れそうにないな、と心の苦笑した。
エルヴィスは、心の奥を見透かされないように、とかく冷静に努めながら口を開いた。
「その未知なるモンスターの話を聞かせてくれないか」

レットは、軽く頷き問いに答える。
「ああ、何でも金色の巨大モスのような形をしていて
 前にいたかと思えば後ろへ後ろにいた事思えば前へ。
 その眼にも止まらぬスピードで部隊は大混乱をしたらしい。
 それに、モンスターの分際で魔法を使いやがるらしいぜ。」
エルヴィスは、無意識のうちに剣を強く握り締めていた。

「まるで、モスのエリートね」
今まで、ただ二人の会話を聞いていたフィスティナが突然口を開いた。
その言葉を聞いた途端、二人の男の顔から笑みが生まれる。
フィスティナの言葉はいつも昂ぶりすぎる感情を抑えてくれる効果があるなと、
エルヴィスは、心の中で一人感謝した。
そのような感情は、冷静な判断を鈍らせる。
そのせいで、自分だけでなく仲間までも危険に晒すことさえある事もある。
エルヴィスは身を持ってしっていた。

「ヒヒ、モスのエリートか、間違いねぇや」
レットのつぼに入ったようだ。
暫く笑いが止まらない様であった。
「まあ、実際この眼で見ればわかるさ。
 明日の出発は早い。今日はもう寝ることにしよう」
エルヴィスの言葉にレットとフィスティナは頷いた。

朝、新しいクエストの話を聞いたカーウェンは、歓喜の笑みを浮かべる。
新しいおもちゃを与えられた子供のような無邪気な笑みだ。
「今回こそは失われた記憶の一部に触れられそうね」
エルヴィスも釣られて微笑んだが、すぐその顔からは笑みが消える。
「各自準備して来てくれ。準備が出来次第出発しよう」

それぞれ身支度が終わり、宿屋の外に集合した。
「皆準備は出来たようだな。
 出発しよう、ウィザードゲートを出してくれカー」
エルヴィスの言葉に頷き、カーウェンは呪文を唱える。
眩い光を放つ円形の魔方陣が彼女の前に現れる。
「場所は、バル長老の村にしといたよ。
 ・・・あのスープまた出されるんだろうなぁ」
カーウェンは思い出したくないように軽く首を横に振る。
4人は、その光の中に飛び込み姿を消していった。