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 ここマイソシアと呼ばれる大陸は、遠い昔メント文明という魔法の文明が栄えていた。
今現在使われている魔法のほとんどはこの時に開発された魔法だとされている。
その力は人間の創造主である神の力をも脅かす程であったと言う。
神はその巨大な力を恐れ、人間の記憶の一部と創造力を奪い封印した。
だが、最近になって古代メンタルロニア文字を研究していた神官によって、メント文明の
遺跡の一部が発見された。

それは、失われた記憶の断片であった。
アスク帝国はその力を蘇らせ、帝国の更なる磐石とすべく首都ルアスで、
広く冒険者たちを募った。
一攫千金に夢見た、冒険者たちがこのルアスに集まるのはその為である。
エルヴィス・カーウェン・フィスティナ・レットもそんな冒険者たちの一人であった。

 黒髪でポニーテールの女性、どこかまだ幼い印象を受けるカーウェンは、
勢いよく酒を飲みながらエルヴィスに絡んでいる。
彼女はスオミと言う陸の孤島と呼ばれる村で生まれた。
そこは、生まれながらにして魔法を使える者が多く存在し
現在魔法使いと呼ばれる者たちのほとんどがそのスオミ村出身である。

彼女は、スオミ村をある理由で飛び出した後一度も戻ってないらしい。
いつも気丈に振る舞っているが、たまに一人黄昏ているのはそのためだろうか。
エルヴィスたちがその飛び出した理由を聞いても答えることは今まで一度もない。
そのためか彼らもあえて聞かないようになった。

長身でがっしりとした筋肉質な体系。また、金色の短髪が良く似合っているエルヴィスは、
隣で絡んでくるカーウェンを無視し、ただ黙ってご自慢の愛剣を磨いている。
とあるダンジョンで手に入れたその長剣は、古代文明の時造られた物らしく
不思議な魔法がかかっている。彼にとって命の次に大切な物らしい。
商人は当たり前として、時にはルアス王宮直属の騎士までもが彼のところに訪れ、
その剣を売ってくれはしないかと懇願しに来る。

しかし、彼はいくらお金を積まれようがその剣を手放す事はない。
昔、就寝中その剣を盗みに来た賊もいた事から、
寝る時も肌身離さず持っている。

彼のように剣や斧を扱う者たちを一般的に戦士と言う。
騎士になるためにルアスに仕官をしたり、傭兵として雇ってもらう者や、
財宝を手に入れるため冒険者となり危険な旅をしたりする者などがいる。
彼は後者である。

腰まであるブロンドの長い髪、色白で目鼻立ちの整っているフィスティナは、
その美貌ゆえか、多くの男性の冒険者たちに声をかけられている。
彼女は聖職者と言う神に仕える職業で、傷ついた体を癒す不思議な力を持っている。

剣や拳を使うものにとって常に危険は隣り合わせだ。
だからそのような力を持つ者は重宝される。
そしてあわよくば彼女を自分の物にしたいと言う願望が、
男たちをフィスィナのところへと向かわせているのだ。
フィスティナが困ったような顔をエルヴィスに向けると
エルヴィスは、男たちをきっと睨む。
敵わないと判断したためか、さっと彼女の元から姿を消した。

また剣を磨き始めるエルをそっと見つめながら
フィスティナはホットミルクを口に入れる。

ぼさぼさの伸ばしっぱなしの髪で痩躯な体つきをしているレットにいたっては、
逆にその辺にいる女性に片っ端から声をかけている。
彼はその器用さと素早さをいかして、スカウトをやっている。

昔は、シーフと言う人から物を盗む生業をしていたらしいが、エルヴィスと
出会ってからはトレジャーハントで生計を立て、
ダンジョンに張り巡らされた罠を解除したり、
また逆に迫り来る敵に罠を仕掛けたりするスカウトになった。
最後の女性にも振られたらしく、お手上げのポーズをしながら
レットは、3人の所へ戻ってきた。

「エルよぉ、剣を磨くなら男を磨けよぉ。その内フィズにもソッポ向かれるぞ」
フィスティナがエルヴィスを見つめているのに気づいたのか、
ニヤニヤとレットはエルヴィスの隣に座る。
フィスティナは気づかれたのを恥らうように、目線を飲んでいたミルクに向けた。
顔はホットミルクのせいかそれとも心のうちを見透かされたせいかほんのり赤い。
「レットいい加減にしろよ」
エルヴィスは剣を磨きながら、一言だけレットに言い放ち自身も
フィスティナに少し目を向ける。

それを見ていたカーウェンは面白くなさそうに酒を一気に飲み干す。
「マスターおかわり!ああ!本当に遺跡はどこにあるの!?
私たちが見つけれなくて誰が見つけられるのさ!」
大分酔っているせいか、呂律が回っていない。
「いい?皆良く聞きなさいよ。封印された力を解き放つと私たち人間は神と同等の
 いやそれ以上の力を手にすることができるのよ!この世界も思いのまま!」
何十いや何百と聞いただろう、酔っ払うと必ず言う台詞だ。
「その力を手に入れることが私の夢!」
相変わらず一人熱弁を振るっているカーウェンを尻目にフィスティナは、
落ち着いた口調でエルヴィスとレットに話しかける。
「・・・・それで、明日はどうするの?」

レットは、カーウェンを煽るのをやめフィスティナの方を向く。
「これからギルドへ行って何かおいしい話でもないか聞いてくるさ」
彼はそういうと、すっと立ち上がり店を出て行った。
「ねぇ聞いてるの、レット!?」
カーウェンが振り向きレットに問いかけた時は、彼の姿はどこにもなかった。