旅の始まり その2


「いい天気だ・・・・」

唐突につぶやくとシン=アオバは大きくあくびをした。

 
ここはミルレスからルアスに向かうための街道。

 
森に囲まれ、小さな高台や岩が目立つ。

街道とは言ってもモンスターが山のようにいる。

 
それでも街道として機能するのは、

ここを行く冒険者たちがモンスターを倒して経験を積んでいくおかげだろう。

 
そんな中をシンはすいすいと通り抜けてゆく。

 
「このくらいのモンスターを狩ってもあまり経験にならないな。

今度からノカン村にでも行ってみるか・・・。」

近づいてきたププロブを切り捨てながらつぶやく。

 
ルアスから遠出をしてはやニ日。

 
見聞を広めるために日帰りで遠出を予定したが、

思わぬところで道草を食っている自分に多少の苛立ちを感じながらも、

まだ見ぬ世界に期待を膨らませるのは若い証拠であろうか。

 
多数のププロブ・・・見た目は緑色の豆・・・をいくらかうんざりしながらも退けてゆく。

 
自分のテリトリーを守るためだろうか

冒険者を発見すると殺到してくるこの化け物を、シンはあまり好きではなかった。

 
そんなことを考えている間にも緑の豆は近づいてくる。

 
上段からの袈裟切り、横薙ぎに切るスラッシュ、

それに加えて自ら動きながら攻撃を避け、盾で受ける。

 
「ふうっ!」

 
気合を入れて剣を振るとププロブに混じってディドが飛んでいく。

すんなりと10匹程度を退けると、

街道から少々はなれた木陰にある高台に上がって休憩することにした。

 
高台の上にもモンスターはいたが、すぐさま片付けてどっかりと腰を下ろす。

何でも屋で買ってきたパンを頬張りながら、シンは空を眺めていた。

 
この男何が面白いのかよくぼんやりと空を見ている・・・・。

 
街中でやると近くにいる人もつられて上を見てしまうこともしばしばだ。

 
その場合つられた人は多少の侮蔑を込めた目でシンをみるのだが・・・・、

 
本人はおそらく気づくことはないだろう。

もう行程は七部目というところだろうか。

 
ザドの発生している地域を走りぬけ一気にここまで走ってきて多少疲れたようだ。

空を見ながら今日見た夢のことを考えていた。

 
「あの夢はなんなんだろう・・・・・。そしてあの娘は・・・・」

 
ただ、狩場でだけは空を見上げる癖を直したほうがいいだろう。

 
そのことで今までに痛いことにあったことはあるようだが直そうとはしないらしい。

羽音に気づいてやっと気配を察知したときには遅かった。

 
高台から降りるための階段には緑の豆と黄色の豆の大群が我先にと上りつつあった。

 
「ちっ。全くどこにこんな蟻みたいにいたんだ。」

 
先頭にたつディストに一瞥をくれると、その傍らにいたディドがなにか騒いでいる。

 
一見すると親に言いつけているドラ息子のようだが、

はたから見ると滑稽にしか感じないのはなぜだろうか。

 
ディドは騒ぎ終わると階段から転がり落ちてしまったが、ディストは目が既に据わっている。

 
「モンスターにも親子意識があるとは今年一番の発見だが、

犯罪者に人権ないのと同じく俺はモンスターにも人権は認めていない」

 
そう言ってやったが、おそらくディストは理解してないであろう。

 
よく考えるとモンスターは人ではないが、そんな軽口を叩いている暇はなさそうだ。

 
中腰に構えたところで飛び掛ってきたププロブを剣の一閃で弾き飛ばし、

足元に群がってくるディドを蹴り飛ばす。

 
「ほんとに蟻さながらだな!」

 
わらわらと群がってくる豆たちを蹴散らしながら階段を下りていこうとするが、数には勝てそうにない。

 
「しかたない・・・・・。」


そうつぶやくと親玉らしき巨大なディストめがけて走りだした。

当然豆は群がってくるがこの際気にしてはいられない。

 
前方に出てくるププロブやディドをスラッシュで切り裂きながら猛然と進んでいく。

 
「あと少し・・・・!」

 
切れそうになる集中力をステリクで何とか保ちながらシンはディストと対峙した。

シンと対峙して間もなくディストが奇声をあげた。

 
すると今まで群がっていたププロブやディドがシンとディストを囲むようにして円を作ってゆく。

 
「一対一でやってくれるのか。変な騎士道精神もったモンスターがいたもんだ。」

 
目の前をみると通常では考えられないほどの大きさのディストが様子をうかがっている。

 
幸いすぐに動く気配はなさそうだ。

 
体長はシンと同じくらい。

節くれだった手足には傷がいくつも刻まれている。

 
手足の先についた爪は太陽の光を反射しながら鈍く輝いている。

 
周りを囲んだモンスターの様子はというと、奇声を上げるだけで全く動く気配はない。

しかし、目の前のディストが号令を発すればすぐさま襲い掛かってくるだろうことはすぐに分かった。

 
この状況をどう打破するか、一刻も早くその方法を考える必要があった・・・。

 

 

 

 
シンがディストと対峙する数十分前。

レティシャは今だにルアスをさまよっていた。

 
ルアスは大通りを中心として、市街地と街が東西に分かれている近代的な町である。

 
「あ〜あ。朝一でサラセン行きの街道に迷い込むとはねぇ。

キキちゃんに会えたのはいいけど方向音痴もここまで来ると重症だわ。」

 
彼女が言うキキちゃんとは兎をモグラ化させたかのようなモンスターであるが、

可愛い外見のため女性に対して人気が高い。

 
他人事のように言うと彼女はルアスの中心部にある広場に戻ってきた。

 
「人が多いわね。ここまで多いと事件も多発するでしょうに。

ま、私には関係ないか。」

 
軽口を叩いていると何でも屋を見つけたので道を聞いてみることにした。

 
「すいませ〜ん。ミルレスに行く街道ってどう行けばいいか教えてくれませんか?」

店員は商品の整理をしていたが呼ばれたことに気がつくと顔を上げた。

 
「いらっしゃいませ〜。この町は初めてでらっしゃいますか〜?」

 
のんびりとした口調で応対したのは年のころ15歳前後の女の子だった。

綺麗な金髪を後ろでまとめて、ピンクと白を基準とした可愛らしい服に見を包んでいる。

いつも笑顔を心掛けているのだろう、応対している間も笑顔が絶えなかった。

 
「うん、はじめてなの。だから迷っちゃって。」

同じ年代の子と分かって、レティシャの口調も親しげになる。

 
「そうですよね〜。はじめて来たところってまよっちゃいますよね〜」

くすくすと笑いながら棚の中から地図を取り出す。

 
「え〜とですね。ここが今私たちのいる場所です。」

地図にある広場の場所を指差しながら彼女の説明は続く。

 
「だからこの道をまっすぐ進めばピンキオのいる城門前に出られると思いますよ〜。」

「ん。ありがと。」

 
レティシャは軽く礼を言うとマナリクを買って店を離れかけたとき。

 
「あ、それとですね最近はモンスターの動きが活発になってきているらしいので、

狩りをする際はお気をつけて〜」

 
レティシャはにっこりと笑って、礼を言った。

 
「ありがと」

 
言われたとおりの道を通って城門前に来ると彼女に声をかけるものがいた。

 
「うい〜す。」

 
慣れたように声をかけてきたのは赤い髪の盗賊だった。

軽薄そうな顔が笑うと犬歯が覗く。

 
「久しぶり。てか昨日あったか。」

 
笑いながら言うと、するするとレティシャの肩に手が伸びてくる。

彼女はその手を軽くはたくと、手と共に近づいてきていた男とも距離をとった。

 
「なんだよつれねえなあ。昨日組んだ仲じゃないか。」

嘘の涙を流しながら言う男を歯牙にもかけずにレティシャは言い放つ。

 
「楽だ楽だといいながら沸いたノカン村に2人で行くという無謀な組み方だったけどね・・・」

軽く溜め息をつくとさらに続ける。

 
「いくらうちの家とあんたの家が仲がいいっていっても、

私までいっしょにお墓になる義務はないんだからね」

 
レティシャの実家、ハウダーク家と赤い髪の男ライト=カージスの実家は古くからの付き合いで、

レティシャとライト同士も幼いころからお互いを知っている。

 
互いに成長するにつれて何の職につくかを決めたのだが、

レティシャは聖職者、ライトは盗賊と、

全く正反対の職についてしまったために、今ではライトの半固定聖となっている。

 
「それにいつも言ってるように、いつまでも一緒なわけじゃないんだから」

 
レティシャの実家であるハウダーク家にはLVが50になるまでに、

生涯の伴侶を決めると言う時代遅れの掟があった。

 
レティシャ自身、掟や慣習にあまり悪い感情は抱いてなかったので、

どうせならいい人を見つけようと心の中でひそかに思っていた。

 
「だからそれに俺がなってやるって」

 
ライトが苦笑しながら言うが彼女は相手にしない。

 
「だめ。あなたじゃ互いの事を知りすぎてるもの。

誰にでも秘密にしたいことのひとつやふたつはあるでしょう?」

 
そう言って彼女は狩場に向かって歩き出した。

まるでこの話は終わりと言うように。

 
その後ろを追いかけるようにライトが続く。

 
「で?今日はどこに行く?」

歩きながらライトが声をかけると、レティシャはブレスウッドスタッフを持ちながら答える。

 
「そうねえ。今日はノカン村にでも行ってみましょうか。

そろそろナイトモスも飽きたしね」

「OK。了解。」

 
そういうとライトも武器を持ち始める。

ライトが使っているのは宝箱から出したカチバゼルという。

 
反り返った鍔(つば)が特徴的な短剣だがその実、魔力を付与された特殊なものである。

ボルウィークバックラーとカチバゼルを持って彼の準備は完了したようだ。

 
「準備完了!さあ行くかねぇ」

相変わらず軽い調子で話すライトに軽い頭痛を覚えながらもレティシャ達は森の中に入って行く。

 
彼女たちが異常発生したププロブとディドそして馬鹿でかいディストと対峙したシンと出会うのに

そう時間はかからなかった。

 

 
つづく(タブン

 

 
遅くなって申し訳ないです^^;

まあ誰も楽しみにしてる方はいないでしょうけどね・・・・(卑屈

さあ、このお話のちょっとした山場シンとレティシャがついに次のお話で会うと思います。

会わないと続きませんが(ボソッ

まあ変なモンスターには多少お慈悲をいただきたい今日この頃でありました・・・・・。