旅の始まり その1


目をあけるとそこは一面の草原だった。
 

うっそうと茂る草木。

どこからか聞こえる鳥たちの声。

そして突き抜けるように青い空。
 

永遠に続くかと思われる地平線のむこうにはおよそ似つかわしくない大きな木がある。

その左手には小さな泉がありその奥には小さな民家があるように見える。
 

そこまで冷静に状況を確認すると家に向かって歩き出した。

しかし、いくら歩いてもいっこうに距離は縮まらない。
 

あきれたように溜め息をつくと、男は草の丈の短い場所を選び体を投げ出した。

鈍い音を立てて175CM前後の体が倒れこむ。
 

歳は16〜18だろうか。

落ち着いた物腰から見るともっと上にも見える。
 

決してきゃしゃではない四肢が草の上に投げ出されると近くに咲いていたタンポポの綿毛が飛んだ。

 
「ここはなんなんだ・・・・・。」

呆れたように言うと胸の上に跳んできた綿毛をつかみ、再び飛ばす。


黒い革の鎧を着ているところを見ると、男が戦士だと言うことがわかる。
 

精悍な顔つきにはもう幼さを残してはいない。

漆黒の髪をざっくりと切り動くのに全く支障のない髪形となっている。


目つきは多少鋭く、見る者を射すくめるようだが、漆黒の瞳にはやさしさも備えてあるようにみえる。

男にしては多少声が高い。
 

一般的には高い声を聞いて細い体躯を創造するのが昨今の先入観だが、

この男はそれを見事に裏切っている。
 

動物にたとえるなら黒豹が一番近いだろう。

男の動作を見れば、しなやかなだけでなく瞬間的にはかなりの力が出せることが見て取れる。

 
「さて・・・・。どうするかな」

 
男はまず今置かれている状況を分析し始めた。


「まず、ここはどこだ? 俺はこんなところにきたことはないし見た覚えもない」

 
・・・・・・・・・。

 
男はさらに考え込むがあきらめて次のことを考え始めたようだ。

 
「次に俺はどこにいたんだ? ここは俺がいたところではないのは確かだ。

じゃあ俺はどこにいた?」

 
少しの間目を閉じると男は顔を上げた。

 
「そうだ・・・。俺はルアスに行くはずがミルレスについたんだ・・・・。」

ちなみにルアスとミルレスの方向は正反対である。

 
「で、神官に会いに行ってどうするか聞こうとしたんだ・・・・。そして・・・。」

 
光に巻き込まれた。

 
その言葉を口にしようとしたその時、明らかに風の音ではない何かが草を踏みしめる音が男の耳に届いた。

 
一瞬で跳ね起き中腰に構える。手は左の腰へと持っていくが・・・・。

 
「・・・ない・・・」

 
そこには常に装備してあるはずの広刃の剣。スワードソードがなかった。

男は舌打ちをするとさらに中腰に構える。ちょうど肉食獣が獲物を狙うように。

 
草が茂っているとはいえ男がいるところは草の丈が短い。

おそらく向こうにいる何者かはもう気づいているだろう。

 
ここまで堂々と歩いてくるには伏兵がいていいはずだ。男はそう直感した。

足音は着々と近づいてくる。

 
「あと3、・・・2、・・・1、・・・!」

 
相手が5M以内に近づくと男は体を低くしたままで相手に襲い掛かった。

 
・・・・迅い。

 
ほとんど一瞬にして相手との距離を縮めると、相手の足元から浮き上がるようにさらに距離を縮める。

そして浮き上がりながら水月に肘を打ち込み・・・・・。

 
其処には誰もいなかった。

 
「・・・え?」

 
一瞬間の抜けた声が出る。よく見ると、相手は仰向けに倒れていた。

 
「当たった感触はなかったのにな・・・・。」

 
男は多少警戒しつつも相手の横にひざをついた。

 
「神官?」

 
よく見てみると神官や聖職者が着るようなたっぷりとした感のある服を着ていた。

 
顔立ちは幼さが多少抜け切れていなかったが、たいていの人は美人というだろう。

髪は肩よりちょっと下まで伸ばして流している。

 
「おーい」

 
ぺちぺちと頬を軽く叩いてやるが反応がない。

 
もう一度頬を叩こうとしたとき、突然女が目を空けた。

 
その瞳はすべてを飲み込むように青く、深かった。

男はその瞳に吸い込まれるように意識を失った。

 

 

 
「む・・・・・。夢か・・・・」

男はベッドから起きだした。寝起きなのでまだ視界が定まっていないようだ。

キョロキョロと周りを見回して宿屋だということに気づく。

 
天上には染みが見える。おそらく雨漏りだろう。歩くだけでぎしぎしときしむ床が宿の年季を感じさせる。

 
「久しぶりにベッドで寝るとあんな夢を見るのか・・・」

ごそごそとベッドから抜け出すと男は軽く伸びをした。

 
軽く体操をすると身支度を整えていく。

 
まずは下着を着そして黒い鎧、ヒーローレザーを身につけていく。


 
他にもヘビーグローブ、ガーター、指輪を取り付け、エアーイヤリング、拾ったフェイトメダル、

 
背中にはスターバックラーを背負い、腰にライトベルト、


黒い狼帽子・・・ブラックウルフキャップと、


スワードソードを取り付けると準備は完了したようだ。

 
ぎしぎしと音を立てて階段を下りてゆく。

 
迷うことなくフロントまで行くと店員に出発の旨を伝えた。

 
「はいは〜い。ご出発ですねですね〜」

朝からはあまり歓迎できないハイテンションな対応に面食らいながら、手続きを済ませてゆく。

 
「え〜と、お名前とご職業、年齢をおっしゃっていただけますか?」

男がゆっくりと口を開く。

 
「名前はシン=アオバ。職業は戦士。歳は18」

「承りました〜。今日はどこにお出かけで?」

 
社交辞令的な店員の問いかけを無視したい衝動に駆られたが、

 
「ルアスだ」と、簡単に答えた。

 
「そうでございっしたか急げば今日中にはつくと思いますので頑張ってください〜」

 
多少変な方言が混ざった気がしたが男は軽く礼を言うと宿をあとにした。

 

 

 
同じころルアスの宿屋にて。

 
「はあ〜。最近夢見が悪いわ〜」

彼女はあくびをすると大きく伸びをした。

 
身長は160CMといったところか。

丈の短いTシャツから見える色白の手足には適度な筋肉がついている。

 
ぱっちりとした目つきに加え、自然界に存在しないはずの蒼い瞳が彼女に神秘的な魅力を与えている。

 
すっきりと通った目鼻立ちや形のいい唇など、美人の要素がそろっている。

街中を歩けば大抵の男は振り向くだろう。
 

セミロングの銀髪をかるく梳かすと彼女は出発の準備をはじめる。

 
見習いの治療師のような青い服・・・ビカクルシェイダを身につけ


指輪、メダル、ライトグラーブ、ヘビーガーター、腰にはバンド

 
薬の入ったウエストバック、ジャグルヘダーをとりつけて準備は完了したようだ。

 
チェックアウトを店員に申し込むと、認証のため名前、年齢等を言うように言われた。

 
あまり気が進まなかったが、朝から気分を悪くしたくないので素直に答えることにしたようだ。

 
「レティシャ=ハウダーク。職業は聖職者。歳は17よ」

ようやく認証してもらうと、朝からにぎわうであろうルアスの広場目指して歩き出した。

 
「さあ、今日こそミルレスにたどり着くわよ〜」

 
意気込みをあらわにして彼女は街道へと繰り出していく。

 
出会いと別れの街道へと・・・。

 

 

 
続く・・・か?