Ancient memory 第九部 V


V


一段一段を慎重に降りていく、ノカンたちの声が段々と近づいてくる。
階段は意外としっかりした造りで足を下ろす度に乾いた音が洞窟の中に響いた。

戦闘開始の、カウントダウンのように。

階段を降りきった直後に吹き矢が飛んできた。
ジェイスが矢を見切り、篭手で防いだが落ちた矢をよく見ると毒が塗られていた。
篭手に当たり金属音が響いた洞窟内のノカンは一斉にこちらを見る。
迷惑そうな目、不思議そうな目。
大きな部屋の中に目がいくつも不気味に光っている。
いろいろな目で見つめてきたが一つだけ共通点があった。

「歓迎はしてないようね」

自分の土地を荒らされ怒り狂うノカン一族は各々の武器を握り締めさきほどのように襲い掛かかってくる。

「全部倒すのは無理だ、最低限で突破するぜ!」
「俺ッチの出番ッスね!」

魔法を唱えた様子も無く手のひらを地面を擦るようにに振り上げた。
フレアシールド。
地面から爆発を起こし、直線を引くその物体は炎。
次々に奥へと爆発と炎上を繰り返し、ノカンたちを文字通り吹き飛ばしていった。

「あれを追うッス!」

炎により、それが通ったあとはぽっかりと穴が空いているように道ができていた。
走り出してもなお襲うノカンはジェイスの拳とセルシアの鞭で返り討ちにあっていた。

大きな部屋を抜け、廊下のようになっている場所で道が曲がった。
炎が壁に当たり、一際大きく爆発して消える。
また襲ってこないかと周りを見回したがちらちらと臆病な者だけがいるばかりで危険な様子は無かった。
どうやらここの構造は大きな部屋と長い廊下の繰り返しで、大きな部屋にノカンたちがいるようだ。

「ここは安全みたいだし、ゆっくり進みましょ」

先を指差し歩くが、首は後ろの2人を向いている。
だから気づかなかった、奇妙な物体に。

「きゃっ」
「どうした?」

それはどこかで見た、縦横高さ60センチほどの箱から目と手だけを出しているモンスターだった。
真っ黒い手でセルシアのウエストバッグを掴み離そうしない。

「邪魔・・・だっ!」

ジェイスが箱を思いっきり蹴る。
手を離し、吹っ飛ばされた箱は壁に思いっきりぶつかりバラバラになるが中身が出てこない。
不思議に思い、バラバラの木片を崩してみたが黒い生物が出てくることはなかった。

「なんなんだ一体・・・気味悪いぜ」
「気味悪いのはこれだけじゃないみたいッスよ・・・」

先へと繋がる道の真ん中でラスアと対峙していたのは、
さっきの箱ほどある真っ赤で丸くて目つきの悪い人の顔をした・・・
一言でいえば気味悪いモンスターだ。

「こいつは[ザスト]、発達した後ろ足で素早く攻撃するキリギリスのモンスターッスよ」
「どこがキリギリスなんだか・・・」
「ディドはノカンの主食らしいけど・・・コイツはディドの亜種かしらね」
「こんなん喰えねぇよなぁ・・・」

言うが早いか、ザストが踏み込みもせずに飛び掛ってきた。

発達した足にはにらみ合う距離など勢いもいらないのだろう、
完全に不意を突かれたラスアは思いっきり頭突きをお見舞いされた。

すぐにセルシアが着地したザストの額に踵を思い切り叩き付け、
気絶させたがさっさと進むことはできなかった。

「ザスト・・・群れるんだな」
「そうみたいッスね・・・」

どうあっても彼らはここをすんなり通す気ではないようだ。
先へ進む道は、道であって道ではなく。
まるで山道のよう・・・
実際、ザストが山のようにいたわけで。