Ancient memory 第九部 T


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ミルレスのウワサの真相を確かめに、急いでミルレスへ飛んだ彼らは一まず安堵の息をついた。
とりあえずは何事もなく、住民は突然現れた彼らに驚くだけであった。

「ノーディたちに言った方がいいですよね?」
「そうね、ミルレスを守れるのは彼らくらいだし・・・」

不思議な町だ。

ミルレスは巨大な木の上にある町として有名だった。
その巨木の名前は『イメトリ』
神の木としてミルレスの住民たちはそれを大事にし、そして同じ自然のものである木々を守ってきた。
今では静かに農業をしていたり、たまに来る商人が町を賑わせるくらいで
かつてメントの時代に一番発達していた町だったことなど、予想もつかない状態だ。

いつからこれほど和やかになったのだろう。
魔法は三つにわけられる。破壊と治癒と恵み。
古代の武器にはほとんどが破壊の力を秘めている。
残った二つは武器防具に籠められることは無かった。
破壊が発達していたあの頃と打って変わり、今では治癒と恵みの使い手が多く住まうだけだ。

本当に、不思議な町だ。



「・・・オッス、久しぶり」

椅子の背にもたれ、いやそれ以上に背を反らせて来客を見る。
口には羽のついたペンが咥えられていた。

「ユウはいないのかしら?」
「ユウはって・・・ここ、俺の家。いるわけないだろ」

確かに。セルシアたちは少し勘ぐりすぎていたようだ。
静かに椅子から降り、セルシアたちの方へ歩いてきた。

漆黒の髪は1年前より伸び、
手入れをしていないのかところどころ芽が出ているようにハネていた。



「あっ、久しぶりー!」

ノーディとは打って変わってこちらは明るく歓迎してくれた。
右手にフライ返しを持ってドアを開けたユウの顔は何故か黒ずんでいる。

「ん・・・?何か、変な臭いしないッスか?」
「今ホットケーキ作ってるんだけど・・・難しいねぇ」

台所を見ると、ホットケーキとは呼べない真っ黒の円盤が皿の上に乗せてあった。

「これ、食べるの?」
「やっぱりちょっと危ないかなー・・・なんて。あはは」

いろんな意味で手早く用件を済まさないと危険なようだ。



「マモっさんいるかー?」

遠慮なくノーディが教会の大きな扉を開ける。

あまり照明の無い内部は昼でも暗く、
一番奥に座っていたマモが足を組んでタバコを吸っている姿はよく見えなかった。

ミルレスの住民たちはマモの悪行に気づいているのだろうか。

「マモさん、またタバコなんか吸って・・・」
「あ、まもちゃんこれあげるー」

皿の上に乗せられた真っ黒の円盤を渡され、それが何かわからなかったマモは聞くしかなかった。

「何だこのヘド・・・」
「ホットケーキ」
「・・・・・・まぁ、みんなして何の用だ?」

上手く話を逸らせ、身の安全を確保したマモはまず安堵した。
何の用でセルシアたちが来たか、それは今のマモにとってどうでもよかった。

「じゃ、本題に入るか」



「いくら俺らが実戦慣れしてるからってなぁ・・・相手が人間じゃ違うだろ」
「まぁ、作戦があるんだ。早い話トールを人質に取るんだが・・・」
「ヤツがそう簡単に捕まってくれるか、って言いたいんだな?」
「そういうことだ」

トールはルアスの騎士団を統率するほど戦いの腕も凄まじい。
魔女相手に互角以上の戦いをしたのだからこちらも本気で挑まないと話にならないだろう。

「そして私たちはルアスの兵士たちより早く古代の記憶を探さなきゃいけない」
「二手に分かれるってことか・・・誰が残る?」
「あたし残ります、ミルレスが壊されるのを黙って見ていられませんから」
「・・・オレも残る」
「OK、それじゃ残るのがノーディ、ユウ、マモ、テイル、ガイの5人。
探すのがセルシア、俺、ラスアの3人だな」

一同は頷く、互いに信頼を置いたからこそ異議の無い組み合わせだった。



夜のミルレス、聖職者たちは寝るのが早い。

懐かしい半分の故郷。
不思議な大きな穴の横に腰を下ろしたガイは珍しく鍛錬をせずに呆けていた。

(オレは、あの人たちの代わりに守れるだろうか)

ミルレスにノカンたちが襲撃してきたときに自分を守ってくれた男女。
身を捨ててまで町を守った彼らにガイは憧れを抱いていた。
二度と会えないがいつでも目に映る、あの大地と風のような優しさ。

彼が最後に放った体中のオーラを爆発させた技。
あれはほとんど自爆だったが、上手く調節すればかなり強力な技だろう。

穴の底へ滑るように降りた。
足を大きく広げ、左手で右手を包み、息を吸い込み、オーラを右手に籠める。
大地の力を足から腹へ、腹から胸へ、胸から右手へ。
眩く優しい光を秘めた拳を大地に叩き込めた──


Hunting result
『大地の怒り』