Ancient memory 第八部 V


V


「ククク・・・フレアバースト!」

テイルに向かって巨大な火球が発射される。
ナヌスの魔力のせいでそこらの魔術師のものとは比べ物にならないほど火球は大きくなっていた。
喰らったら、ひとたまりもないだろう。

「ちぃっ!」

ウィザードゲートの応用でテイルの前へと飛ぶ。
テイルを連れて避けたいところだが駄目だった、間に合わない。

大爆発が巻き起こる。
爆風で周りの木々が揺れる。
恐ろしい魔力で焼け焦げた煙や砂埃の中に、しかしラスアは立っていた。
倒れることは許されない、守らなければならない人がいる。
彼は咄嗟にこちらもフレアバーストを放ち、相殺を狙ったがあちらの魔力が大きすぎた。
フレアバーストを放った右腕は肩まで肉は焼け焦げ、指は目も当てられない状態だった。

「許さない・・・お前は絶対に許さない!今!ここで消し飛ばてやる!」

テイルもそこまで怒ったラスアを見るのは初めてだった。
怒るのも当然だった、彼は最愛の人を殺されかけた。
しかもその人は一人ではないのだから。

ひどい状態の右腕をまだ、なお上げる。
魔力が渦巻く、スオミで見せた魔力など一息でかき消せるほどに強い魔力が手に集中していた。
ラスアの魔力だけではない。
ナヌス、魔力の倉庫からも魔力を吸い取り手に集める。
勿論これほどの魔力を放てばラスア自身も無事では済まないだろう。
だが止めない。
そして魔術師のナヌスからも魔力を吸い取り始める。

「き、貴様!」
「これで魔法が効くよな・・・?」

ラスア周辺の魔力は全て彼の手に集まっただろう。
木や土、草も勿論ナヌスを吸い取った生物全てから集めている。
後ろにいたテイルが魔力の圧倒的な気配に立てなくなる。

「終わりだ・・・」

晴れていた空が突然夜のように暗闇に包まれる。
周囲の空気も重々しく、中途半端な鍛え方をしている者なら倒れこんでいるだろう。
気味が悪いほどの静寂。
空に小さく何かが点々と見える。段々、大きく、近づいてくる。
それは隕石、ひとつひとつがとてつもない魔力を持ち、炎を纏い、魔術師目掛けて落ちてくる。

隕石が地面にぶつかる、連続して爆音が響く。少し遅れて空を切り裂くような音が耳に響いた。
あまりの速さに音が遅れてきたのだろう。


戦いは終わった。
例のポンも魔術師の精神も・・・ナヌスも全て消えてしまっていた。
彼も、右腕を失ってしまっていた。
止まらない血に苦痛を覚える。
戦っているときはそんなこと少しも感じなかったのに。

「大丈夫・・・じゃないよね・・・」

右肩に光が集まる、テイルがリカバリをかけていてくれた。
血は止まらない、傷口が大きすぎる。
だけれど痛みはあまり感じなくなってきていた。


ああ、そうか。必死だったんだ。

君を守るため、そんなこと考えていなかったんだ。

一緒にいると、安心できる。

痛みなんかもう、感じないよ。


Hunting result
大事な、大事な
『守れた君』