Ancient memory 第八部 U


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「まずは久しぶり、2人とも」
「久しぶりッス」
「お久しぶりですー」

お世辞にも大きいとは言えない家に5人がお互いの顔が見えるように座る。
セルシアがまじまじとラスアの右肩を見つめていたので、
それに気づいたラスアが聞かれる前に言った。

「ああ、コレはちょっとやっちゃったんスよ」
「随分酷いわねぇ・・・お互い、何してたか話さない?」
「そうだな、俺も気になるし」

右肩を左手でさすりながら、ラスアは口を開いた。



湖の上に神秘的な建造物、不思議な現象。
それが当たり前の街。スオミに彼は戻ってきていた。
金髪の女性を連れて。
この街を出て行ってから何年経ったろう。
見慣れた、いつでも目を瞑れば思い出せる情景。
けれどこの目で実際見てみると全然違っていた、色々なことを忘れていた。

「ラ・・・テイル、ここで待っててくれるかい?」
「うん、行ってらっしゃい」

テイルと呼ばれた女性は少し腹部が大きくなり始めていた。
彼等は2人じゃない、もう3人なのだろう。
彼の足は一際大きな建物へ動いた。知り合いへ会いに。


「ちわーッス、ガルダ教頭。マーク先生はいるッスか?」
「・・・!ラ、ラスア!貴様今までどこへ行っていた!」

ガルダと呼ばれた男は魔術師の割にかなりいい体形をしていた。
顔もなかなか美形だが、惜しいかな頭髪が薄い。
ラスアの襟首を掴み、質問を質問で返す。

「少し旅してたんスよ。わーったら放し・・・あわわわああ」
「お前がいない間にマークは、マークは!」

願いを聞き入れず襟首を掴んだまま前後に揺さぶる。

「プーレのところへ行け、今すぐだ・・・」

揺さぶるのをやめ、一つだけ命令して教頭は去って行った。
大きく強そうな背中が妙に小さく弱く見えた。


「それで、マークは死んじまったよ」
「ポン・・・か。カプリコは追い返したのか?」
「俺が着いたときにはカプリコの死骸と虫の息のマークがいたよ」
「・・・例のポンは?」
「残念だが、生きていた。・・・だけど俺の魔法が全て効かないんだ」
「マークが倒れた間に何か変化が起きた、としか考えられないな」
「そういえばルアスにモンスターが襲撃してきたとき、
斬っても効かないポンがいたとかって話も聞くな」
「・・・わかった、少し出かけてくる」
「ああ・・・・・・ん?まさか森に・・・」

止めようと顔を上げた頃にはラスアはいなくなっていた。
伸ばした手が虚空を掴む。



剣が効かない、魔法が効かない。
常識的に考えてとても頑強な物質だとしか考えられない。
だけれど・・・相手はポン、今のラスアなら少し魔力を発するだけで倒せるだろう。
と、すると・・・

「・・・ナヌス・・・・・・か・・・」

テイルの元へ戻って来る。
伸びた髪が風に揺れる。
髪の間から覗ける目は怒りに光っていた。

「どうしたの?何かあったの?」
「いや、何でもないよ。
俺ッチ、今から少し森に行ってくるから、あの家のプーレってヤツに休ませてもらってて」
「あなたのお友達?気をつけて行ってきてね」

ロクに返事もせずラスアは森へ歩き出した。
その手には恐ろしいほどの魔力が渦巻いていた。



森がかなり深くなってくる。
プーレが教えてくれたマークが倒れた場所、
そこに例のポンが陣取っていると街でも噂されているという。
何故そこにいるのか大体予想はつく。

ナヌス、神の液体や神秘の水と呼ばれている液体だ。
その液体は古代メントの民が残したと言われる。
おそらく、そこで「補充」をしていたに違いない。



「ナヌスは肉体的限界を克服したり架空の生命体へと変身できたり・・・
その代償としてナヌスを定期的に得なければいけない。それをやめると・・・」
「ワタシのように殺人的欲望に駆られたり人格が破壊されたりする、だが後悔はしていないよ」
「俺は十分後悔してるさ・・・何故あの時この水を処分しなかったのか」

ラスアが球体の雷を投げつける。
雷速の速さでポン・・・古代の魔術師に命中するがまるで吸収されたかのように魔力は消えうせていた。

「ナヌスへ魔力を流したな・・・確かにナヌスは魔力の倉庫みたいなもんだからな」
「それよりワタシにばかり集中していていいのか?」
「・・・どういう意味だ?」

魔術師が指差した方向には今のラスアの大事な人。
テイルが心配そうに追いかけてきていた。



次の話に続きます・・・・・・・