Ancient memory 第三部 T


T

体が温かい、空気が湿っていない。
・・・頭が痛い。

「あ、起きましたか」
「ん・・・ラスア?」

よく周りを見ると大きな暖炉がある。
どうやらレンガで造られた家のベットで寝ていたらしい。

「あれ?ダンジョンは?」
「ウィザードゲートを開いて帰ってきたんスよ、姉サン、丸2日倒れたままだったんスから」
「それはまた迷惑かけたわね・・・」

まだ痛む頭を抱えながらフラフラと歩き出す。
明らかに危ない、と見かねて支えようとしたラスアを押し倒し、倒れこんでしまった。

そこをガチャリと音を立ててジェイスが入ってきた。

「お、起きたかセルシア・・・っとと、早々お楽しみかい?」
「キャアアア!!」
「ぐぅ・・・た、助けて兄貴・・・」

ケラケラと笑いながらふざけるジェイスと見慣れない少女。
霞む目で見た少女はこの状況を勘違いしたらしく悲鳴をあげていた。
そして私の下敷きになっているラスアは非力で、どうにも重かったらしい。
ダメだ、頭が重い・・・あとで、痛い目に合わせてやる・・・


また眠り込んで夜になった、起き上がってラスアに近づく。



「ぇーと、まずどこから説明しますかね」

頬が赤く腫れ上がったラスアが痛そうに口を開ける。
勿論犯人は私だ。

「じゃあ私が倒れこんでからの2日間の間何があったか教えてくれる?」
「あ、あたしも聞きたいですー。どうにも医学的なことじゃないみたいなのでぇ・・・」
「えーっとな、お前が短剣を握ってから倒れこんだのは覚えてるよな?」
「えぇ、何か不思議な情報が頭の中を駆け巡って・・・」


倒れこんだあと短剣は雷を発しなくなっていた。
額から尋常ではない量の汗をかいていたので危険だと思った二人はこれ以上の探索を中止し
ラスアのウィザードゲートでミルレスに移動してきた。
町につくと抱えられている女性が心配、と事情を聞いた一人の少女が家を空けてくれた。

ルアスは行けない、お尋ね者だからだ。
ジェイスのバカめ・・・


「で、貴女の名前は?」
「テイルって言います、ファミリーネームはララでぇす」

短い金髪を小さく後ろで二つに分けた髪を揺らしながら
お気楽そうで、それに元気いっぱいな笑顔と声で自己紹介をした。

「元気ね、ありがとう。テイル」
「そういえば俺ら自己紹介してなかったなぁ」
「2日も一緒にいて・・・バカじゃないの?」
「そりゃそうだな、ダーッハッハ!えーっと、俺はジェイスだ、ファミリーネームは・・・いや、ジェイ

スでいいや」

セルシアがため息を吐く、しかし3人は別に困ったことではないといったような
顔で自己紹介をし始めた

「俺ッチはラスアッス、ラスア・ケートッス。んで姉さんがー」
「私はセルシア、ファミリーネームは実はわからないの。ま、よろしくねテイル」
「皆さんよろしくおねがいしまぁす。で、聞きたいことがあるんですけど」
「ん?ララさんなんッスか?」
「皆さん見たところ盗賊さんですよね?」

ジェイスが呟いた。
ヤバ・・・

「(どうする?バレたらお縄にかかっちまうぜ)」
「(別に隠してるワケでもないし今更隠しても意味ないし、いいんじゃない?)」
「(いざとなったら睡眠剤でもバラ撒いて逃げればいいッスよ)」
「(お前・・・意外と賊っぽいぜ)」
「(永く付き合ってるとイヤでもこうなるッス・・・)」

ヒソヒソと3人で軽く相談をし、
結局、バラすことにした。

「ってわけで、そのとおり私たちは盗賊よ。人様から何かを盗むのはあまりないけどね」
「まぁ、エンシェントハンターってことだな」
「古代の記憶を・・・」

・・・


「じゃあ皆さんはいい盗賊さんなんですねぇー」
「いや、別にいいってワケじゃあないけど・・・」
「じゃあ悪い盗賊さんなんですかぁ?」
「いやー、格別悪いってワケでもないんだけど・・・」
「じゃあ普通の盗賊さんなんですね」
「ぁー・・・」

夜が明け、朝日が完全に顔を出すまでに話は理解させた。


「まだ、聞いてないこといっぱいあるのよね・・・」

目の下に隈を作り、疲れた顔をしながらセルシアが呟く。

「簡単に説明するッスわ・・・」
「うん、お願い・・・」
「姉さんが握ってた短剣、あれは雷が出なくなって誰でも持てるようになったんスよ」
「なんか・・・メンタルロニアとかメントの記憶とか、不思議な言葉が頭の中に入ってきたのよ」
「メンタルロニアって・・・メント文明って名前ができた語源の理想郷とやらか?」
「だったわね、そういえばその短剣、ジェイスに似合うんじゃない?」

ジェイスが短剣を持つ、そして簡単に振り回したり器用に指の間で回したりしてみた。

「おー、こりゃいいね。軽くて・・・なんか不思議と力が出てくる」
「そういえばメント文明は物質に魔力を籠めて物質の能力を強化したりしたとかって話ッスね・・・」
「あ、コマリクもそうね」
「んじゃこれは古代の武器?」
「そうなるッスね」
「ふぅん・・・」

疲れているからか、目的のモノを得れたという話でも
あまり感嘆の言葉とか、感激の動きとか。
そういうものは見受けられなかった、そして沈黙。

「も、もっと喜ぼうぜ!ホラ新しい武器が手に入ったんだしさ!」
「うん・・・おめでと。じゃあ私寝るね」
「俺ッチも・・・も、もうダメ・・・」

一人、二人と布団に入る。
だらりと腕を下ろしたジェイスも、その場で倒れこんで眠ってしまった。
しかしこの3人をここまでにした犯人、テイルは元気に買い物に行っていた。


Hunting result
『古代の短剣』