ドロイカンズ後編


後編

ミルレスに着いたのはもう夜。
暗くて状況が判断しづらいがまだ激しい戦闘が続いていることはわかった。

真紅のローブの中心を貫いて着地したグレンの顔に血が付着する。
スレシャーパンプキンの残骸から飛び出た血だ。
親指で擦るように払い、さらに走る。
槍はすでに血で真紅に染まっていた。


メイの手が斜めに斬るように振られる。
その描いた線通りに連なり現れた氷の槍がスレシャーパンプキンを貫いた。

「何体倒した?」
「もう、数えるのも疲れたわよ」

背中合わせになった2人は肩で息をしながらまだスレシャーパンプキンと対峙していた。
何十体、もしくは何百体来たのだろう。
倒しても倒しても減らない相手に絶望を感じる。
疲れに目が眩んだそのとき、スレシャーパンプキンが2人を噛み付こうと跳びかかってきた。

「しまっ・・・!」

しかし噛み付かれることはなく、その巨体は十数メートルも吹き飛ばされた。
そこにいたのは虹色の尾を持った真っ白いヤギのような体の動物。

「エルモア・・・完成していたのか」

エルモアと呼ばれた動物は背中に鞍をつけている。
騎士が乗り、長い槍のリーチを生かして戦うために作り出された守護動物。

「乗れ!」

命令口調でメイに指示を出したが、彼がメイを抱えてエルモアに乗った。
背中に主人を乗せたエルモアは、猫のように発達した足で飛び上がった。
一瞬でスレシャーパンプキンの眼前にまで飛び上がる。

そこへアイスランスを打ち込むメイ。
後ろから襲おうとした敵はグレンのハボックショックで撃ち抜かれていた。

「これならいけるかもしれないね」
「だといいがな・・・っ!」

話に気を取られて避け切れなかった。
スレシャーパンプキンの短剣がグレンの左肩をふかくえぐる。

暗く、よく見えないがスレシャーパンプキンは一際目立つ虹色の尾に気を引かれて集まってきていた。
ざっと見ただけで50体近くはいるだろうか。
多く群生するモンスターでも、ここまで多く囲まれていたら勝ち目は無い。
そして今もなおミルレスの住民の悲鳴が響いている。

「もう無理だよ・・・逃げよう。逃げようよ?」
「俺は・・・ミルレスを守るために騎士になった。
たとえこの身朽ちようとも街は守ると誓ったのにまたやられてる・・・!
ヤツらはクズだ、人間を殺す対象としか思っていない!
このクズどもを洗い流す雨はいつになれば降るんだよ!」

まるで誰かに当たる、というより自分の非力さを痛感して嘆くように叫んだ。

「・・・・・・雨・・・あたしが、その雨になれるかな」

突然思いもよらない言葉を発するメイにグレンはただ驚く。

「ここで、あたしの魔力を全部解放したら・・・どうなるかわからなけど・・・」
「な、馬鹿なこと言うな!そんなことしたらお前が」
「うん。多分消えちゃうね、少なくともあたしがこのままでいられることはないと思う・・・
危険だから、早く逃げて!私はもういいから早くあなただけでも・・・」
「どうしても、やるんだな。なら止めない。だけど一つだけ条件がある。
俺も残る、お前だけやらせるなんて絶対許さない。・・・手を貸せ」

メイの左手を大きな手で取ったグレンが摘んでいたのは
金色の輪に大きなオレンジ色の宝玉が埋め込まれた指輪。

「渡すのが遅れてすまない」

薬指にそっと入れる。
メイの目からは涙が零れていた。
エルモアが不思議そうな顔で見ている。
犬が甘えるような声を口も開けずに出す。

「じゃあ・・・もう時間が無いから」
「ああ、もういつでもいける」



朝になり、ミルレスに残るのはスレシャーパンプキンの死骸と荒らされた町。
傷ついた住民が聞いた声は、遠く聞こえる重なる竜の咆哮だった。