ドロイカンズ前編


本編の中に出てきたドロイカンの逸話です。
矛盾点とかありそうですし空想がほとんどなのであまり深読みは禁物・・・

前編


「終わったか?」
「寧ろそっちが遅いわよーだ」

森の中で傷だらけになりながら笑む2人の男女がいた。
槍を構える赤い短髪の騎士。
底の無いほどの魔力を携えた青い長髪の魔術師。
そしてその2人を取り囲むように一つ目のモンスターたちが倒れていた。
既に息絶え、目には光は無い。

「任務は終わった、すぐにゲート班を呼び寄せてくれ」

騎士の男が篭手につけた黄色の宝玉に呼びかける。
端から見れば変な行動にしか見えないが、
その考えを打ち消すように確かに宝玉からは「了解」との返事が聞こえた。
篭手をつけない魔術師はネックレスのように加工し、黄色の宝玉を持っていた。



どうやら遠くの相手に話しかける装置らしい、
ミルレスの街中でそれをつけない人は限りなくゼロに近かった。

街中で露店をしている商人の並べる商品は
地面に置くようなことはせず、客が見やすいように宙に浮かんでいた。

風呂に入ったのだろうか、まだ濡れている髪を揺らしながらさきほどの魔術師が商品を見つめている。
まじまじと見つめるその商品は金色の輪に大きなオレンジ色の宝玉が埋め込まれた指輪。

「メイ、会議があるからすぐに戻れと言われたじゃないか」

彼女の頭を掴むように置いた手の持ち主は赤髪の騎士。
こちらはまだ顔も鎧も泥が付着しており、街中を歩くには目立つ格好だった。
メイと呼ばれた魔術師はとぼけた顔で振り返る。

「あ、グレン。ってせっかくお風呂入ったのに汚い手で触らないでよ!」
「酷い言い様だな。ところで何見てたんだ?」

顔を並べて見つめる指輪は明らかに高そうで、とても買えそうにない高価なものだった。

「お前でもこういうもの欲しがるんだな」
「どういう意味よ・・・で、会議は?」
「中止だ。またモンスターが出た」
「まさかあたしたちで退治じゃないわよね?」
「俺たちはしばらく仕事で休養が取れなかったから休んでていいそうだ」
「やたっ、どっか行こう行こう!」
「わかったわかった。とりあえず俺も風呂入るから先に帰ってろ」

うん、と頷いた彼女はピンク色のローブの裾を踏みそうになるほど早足で街中に混ざっていった。
その後姿が消えるまで見送った彼はすぐに家へと戻らず、商人に一つ尋ねた。

「この指輪いくらする?」
「そうだな、80万と言いたいところだがにーさんたちの恋の繋ぎになるんだったら60万でいいぞ」
「そうか・・・指輪の名は?」
「メイリングっつーんだ」
「メイ・・・そうか・・・」



最近モンスターが多い。
何かに惹きつけられて来るように町を襲って来る。
ヤツらはクズだ、人間を殺す対象としか思っていない。
このクズどもを洗い流す雨はいつになれば降るのだろうか。
俺たちは点々と逃げてきた、森の中山の上、そして町を作り守りあったが逃げ場にはならなかった。
時間は規則正しく過ぎる。鎖のようにたためば短く見え、伸ばせば長く見える。
俺は今、時間がとても長く感じる。

鏡の横にあるいくつもの穴から温風が吹き出す。
それを髪に当て、水で崩れた形を直す。
穴に手を当てると不思議と風は止まっていた。

「さて、どこに行こうか・・・」



寄せる白波に手をそっと入れてみる。
海は指の骨にまで染み入りそうなほど冷たく、夕焼けの色で眩しくどこまでも輝いていた。
彼女は話しかけない。彼も話しかけない。
話さなくてもわかっている、この時間が幸せだということ。

砂浜に落ちていた貝殻を拾う。

そして水平線に向かって投げる、どこまでも遠く、見えなくなるまで遠くへ飛んでほしい。
だけれど見えるか見えないかのところで、小さくとぽん。と音を立てて貝は消えた。

突き放して二度と見えなくなりたい、

けれど遠くまで突き飛ばしただけでまた波に揺られて砂浜に戻ってくる。
まるでいくら捌いても襲ってくるモンスターのように。

知らせたい。遠く、遠く離したヤツ等に二度と近寄るなと。
だから叫ぼう。あの水平線へ、どこまで伸びるかわからないけれど。
大きく、響くように、あの水平線へ。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

突然隣の男が頭のシンにまで響くほど大きな声を出せば誰でも驚くだろう。
腰を抜かしてローブの裾が海水で濡れてしまった。
どうしたの?と声をかける前に篭手とネックレスについた宝玉から声が聞こえた。

「スレシャーパンプキンが襲ってきた、今すぐ応戦に向かえ!」

一方的に言われ、そして一方的に切られた通信に戸惑ったが、すぐに気を取り直した。
急いで、ミルレスへ。