アスガルド物語〜序章〜その2 寛麗春は、長く続く階段を上りテラスへ向かっていた。 バハラ王宮のテラスは中庭に面していて、休息中の士官で溢れている。 ここは士官達に開放されていて、 士官の同行であれば下士官も利用することができるようになっている。 王宮御用達の商人が飲食店を開いていて、 そこのモスナゲットは人気メニューで貴族達がこっそり買いに来るぐらい繁盛している。 麗春も何度か食べたが、 チャイナタウンのモス餃子にはかなわんだろうなどと、密かに思っているのだった。 寛麗春の呼ばれたテラスはここではない。 別塔にある個人用のテラスだ。 そこは上級士官でも入ることが許されていない。 彼は軍人ではなかったが、ちょくちょく王宮に出入りしている。 もちろん商人でもない。彼の職業は盗賊だ。 ちゃちな盗みなどはしない。もちろん強盗などもだ。 彼が好んですることは、ダンジョンに眠るお宝探し、いわゆるトレジャーハンターである。 だが、それだけでは王宮に入ることができない。 彼には強力なコネがあった。今日はそのコネの人物に呼び出されたのだった。 わざわざ休暇中によびだすとは… 心の中で毒づきつつも足は止めず、黒髪の青年は上へ上へとのぼっていった。