プロローグ「忘れ去られた部屋」



ルアスのバハラ王宮の奥深く、
暗闇で閉ざされた階段を降りるとその部屋はある。

何の為に造られたかは分からないが、
今では誰もそこを訪れる者はいない。

むしろその部屋の存在を知る者の方が少ないと言える。

そんな周りから閉ざされた空間で、
二人の男があるモノを前にして立っていた。

一人はこのルアスの誇る騎士団を治める、
大将軍トール。

もう一人は魔法都市スオミの魔道軍の長、
魔道軍将ルーヴァンス。

二人はそのモノを長い間凝視していたが、
先に口を開いたのはトールの方だった。

「ルーヴァンス卿、これで計画の第一歩は
完成という訳だな」

「ですな・・・
まだ試作品には過ぎませんが・・・」

「いやいや。ここまで完璧なのだ。
多少の修正は後からなんとでもなる。
さすがはスオミの魔法の力と言った所か?」

トールはフッと笑みを浮かべる。

「私はただ、『古の記憶』に従ったまでです」

「ふむ・・・古の記憶か・・・
とんでもないものを造りだしたものだな、人間は・・・
まぁ、結果としてこうしてコレが完成した訳だが」

「では、当初のお約束通り、コレは・・・」

「うむ。卿に任せる。
何か不具合が生じた時の修正も必要だろうしな。
ただ・・・分かっているな?」

「はい・・・全てはルアスとスオミの繁栄の為に」

「ふふふ・・・人類にとっての進化だよ、コレは」



それから数分後、
バハラ王宮の奥深く、その忘れ去られた部屋に、
また静けさが戻った。

暗闇がその二人のいなくなるのを待ちわびていたように
再びその部屋を覆う。

そしてまたしばらくその部屋は、
誰からも存在を知られる事なく
静寂と共に過ごす・・・