第二十七話〜魔女の村〜


 一瞬、ゲートを使ったときのような黄金の幕を通り過ぎた後、
私たちはさっきまでの雪山とは別世界ともおもわれるような場所に立っていた。

石畳で舗装され、整備された道。そして神秘的な青い光を放つ街灯。

そして、黒い木々と岩でくまれる美しい家々、
町の真ん中の広場では、巨大な緑色の炎が燃え上がっている。

見上げる空には、綺麗な星に月。 ここだけ雪雲がかかっていないようだ。

私たちがはいっていくと、道端で立ち話をしていた魔女や、買い物をしていたものまででてきた。

この町に、魔女以外のものが入るのはすごく珍しいようだ。

「みなさん、どうぞこちらに」

レルシアは、私たちを一軒の家先まで案内した。

黄色い淡い服が、他の魔女たちの黒いローブとちがいとても目立つ。

どうやら詩人の服を着ているのはレルシアだけみたいね…。

「ワイらよっぽどあやしまれてるんやろか? ジロジロみられとるで。」

コソコソと、クロスが私に話しかけてくる。

「みたいね、、、歓迎されてるとは思わないけど。」

「このまま僕ら火あぶりとか…ならないよね?」

キョロキョロ周りを見回しながらシリウス。

トントン、レルシアは家の戸をノックする。

「ママ〜、私だけど…」

バンッ!!

その瞬間、大きく扉が開け放たれ…

「レルシア! こんな時間までどこいってるの!!」

とつぜんに、高い大声が響いてきた。

「ひゃ〜、相変わらず怖いね、レルシアのおっかさんは。」

炎の塊、フィアンマがぱっとうしろへ退いた。

「ひゃっ。 ち、違うよ〜遭難した人たちがいたの、白銀の森で。」

「あそこに人なんてくるはず…あら!」

ようやく私たちに気がついたらしい。

レルシアとそっくりな顔つきのまだ若い魔女が、目を丸くして私たちを見ていた。

年にして20前後にしか見えないのだが、姉かなにかだろうか?とおもわれるほどの若さ。

「あら、情けないところをみせてしまって。どうぞおはいりください」

「またおこられちゃった、、、さ、はいってはいって。」

レルシアに進められるまま、私たちはその暖かい家の中に入っていった。

「そう、ゲートの超空間がみだれてしまったのね、、、大変でしたね」

彼女の母親は、私たちがずぶぬれなのをみて、タオルに温かい飲み物を運んできてくれた。

暖炉では、フィアンマが薪をせっせとおいしそうに燃やして煙を吐いている。

「あの、、、美しい母上様?」

外交面担当、クロスが彼女に話しかける。

「フフフ、ミレアよ。」

彼女は娘と同じような仕草でわらう。

どうやら魔女の家系というのは老いる時間が遅いらしい。

「実は、ワイ達は今日の夜までにルアスに帰らなければいかんのや。
歩いてルアスまでどのくらいかかります?」

「えっ!?、ルアスですか、、、それは無理ねぇ。歩いても三日はかかるわ。」

「三日…」

今晩、あの黒ずくめの男たちはルアス王城に保管されている魔法武具をとりにいくといった。

15年前、大戦時に“クリエイトマジック”により作られた数々の強力な魔法武具をねらって。

お前たちも現れろと…だめ、間に合わないとあいつたちを捕らえるチャンスが…

「ミレアさん、実は俺たちは…」

ヘブンが、彼女に状況を説明し始める、

ほかに手段がなければ…下手をすればルアス王宮が危機にさらされるかもしれない。

ところが、彼女は話を聞いていくうち、一つのところでひっかかった。

「魔法武具…? 私も知りませんね、なんなのでしょうか?」

「魔法武具とは…かっての大戦時に作られた魔力を帯びた武器です。」

「うちのパパも使ってたの。 話によると炎を発する大槍“サラマンドラ”だっけ」

「私のこの剣もそれ。 これは光の魔法武具みたい。」

私は背中から大剣“セルティアル”を引き抜き、それをレミアにみせた。

「これは、、、すごい魔力を感じます。 
あっ、もしかしてほかにも属性のついた武器が!?」

彼女が何かに気がついたように、声をたかげて言った。

「ワイも確かスクールで習ったで…あと水の“フェンリル”土の“ヨルムンガント”
闇の“イービルアイ”に...、ほれ、ミレィさんの風の“ミョルニル”やったっけ…」

「六つの魔力を持つ属性の武器...、レルシア! 長老様をよんできて、至急大事な用があるって!」

ミレアは、レルシアに叫んでそう告げた。

「ふぇ、あ、はい!」

ドタドタ、彼女は慌ててかけていく。

突然の事態にわけが判らない私たち。

それをみかねたように、彼女は説明してくれた。

「私たちカレワラに古くから伝わる予言があるの。
それにぴったり当てはまりそうなのよ、もしかしたらだけど…」

「え? 予言ですか...」

ドン!!

ドアがおおきく押し開かれ、外からレルシアと、もう一人、低い背に銀色の髪、そしてシワシワな顔…

百歳はゆうに超えていそうな老婆が、黒いローブをきて、杖をついてはいってきた。

「このお方が我々カレワラの長、ドロシー様です。」

ミレアは、その老婆を支えるように横につき、私たちに紹介した。

年老いていながらも、彼女を包む魔力は威圧感を私たちに感じさせる。

「ほぉ、、、主たちが外から来たものか...魔法武具をワシにもみせてもらえんかの?」

しわがれた、しかし力強い声が響いた。

ありがとうよ、彼女はそういいながら、私が差し出した大剣“セルティアル”に目を凝らしてみている。

「ふむぅ…たしかにこれほど強力な属性を帯びた武具ならばあるいは、
“アポカリプス”を引き起こす原因となるやもしれん…」

「「「アポカリプス??」」」

私たちも始めて聞く言葉だった。

「“アポカリプス”…世界最後の日。

カレワラの祖先より代々と受け継がれてきた予言にはこうある。

“世界が終わる予兆。暗黒の衣は世界を行き交い、人々の心を恐怖にさせる。

恐れ、町より逃げ出した人々に更なる天災は巻き起こり、大地をことごとく滅する。

神に仇なすもの、天に一番ちかきところより、それを開放し、下界を洗い流し、天界へのぼる…”

これが“アポカリプス”についての予言じゃ…」

長老は、一気に語り終え深い息をついた。

シーン、静まり返る部屋の空気。

だたフィアンマの炎がパチパチはぜる音だけが響く。