第十八話〜慟哭〜



薄い緑の光が異様な光景をさらけ出している。

事実…その部屋は神をも冒涜する研究の結果がそこに残されていた。

今、その部屋に男の叫びが溜まった空気を震わせている。

「うわぁああああ」
シリウスはその場に倒れて、頭を抱え込みながら叫び続けた。

「おちついて! シリウス!」

私は、突然ことに驚きながらも、彼の背を支えて必死に訴えていた。

手を触れた彼の肩、いや体全体がガタガタ震えている。

「あぁあ・・・・ ゴホッゴホッ…」

「何があったの…? シリウス?」

叫び声が収まった。

けど、まだ彼の震えは静まりそうもない。

 どうしたのかしら…何かに怯えているような…。

「うっ…うっ… ティアさん…」
彼は、ゆっくりと顔を上げた。

「僕も…作られた存在だったんだ…この子達と同じように…」

涙をためた目が、私を、いえ、もしかしたら、
私じゃなくて虚空を見つめていたのかもしれない。

とてもさみしそうな表情だった。

けど、私の頭にも激しい衝撃が走っていた。

「うそ…、そんなはずないわよ。 シリウス…」
うまく舌が回らない。 

「僕たちは…ある男のために兵器として生み出されてきた…この水槽の中で…
 ただ、主人の命令をただ冷徹にこなし、殺戮と破壊を繰り返す兵器として…。
 僕は…僕は…兵器になんかなりたくない…」


 …シリウス…そんな記憶、二度と思い出さなければよかったのに…
 
「!? ティアさん…?」

私は、彼を正面から抱きしめていた。

涙が私の服に長い跡を作って落ちていく。

彼の涙だったのか、それとも私の涙だったのか…

「貴方の過去がなんであろうと…シリウス。 今の貴方は兵器なんかじゃない。
頼りないところもあるけど、優しくて…暖かくて。」

「・・・」
彼の震えが止まったような気がした。

私がきつく抱きしめていたせいかもしれないけど…

「だから…そんなふうに自分を思わないで。
生まれがどうであれ…何をするのも貴方の意思なんだから。
ずっと、今のままでいて。私のためにも… ね?」

「ありがとう…」

「ティアさんのおかげで、僕も立ち直れましたよ。 もう泣かないで」
まだ引きつりながらも、彼はいつもの笑顔で私をみつめた。

片手で彼の鞄から取り出したハンカチで、私の涙の後をやさしくぬぐっている…。

「バカ…、誰のせいだと思ってるのよ…」

しばらく、私は彼に抱きついていた。

抱きついていたいと思った。

しかし…

 バリィィィィン!!

「「!?」」

突然、ガラスの割れる音が響いた。

ひとつの水槽がわれ、中から…人でないものが光る瞳でこちらをみている…