第十七話〜異形の者〜 闇の奥にきらめく淡い緑の色を帯びた光。 それは闇の奥のその場所には、あまりにも不つり合いであり、不気味であった。 「シリウス、がんばって! もう少しよ…」 私はシリウスの背中にぎゅっとしがみつきながら、その光を見ていた。 その光が、淡く私たちの足元を照らしている。 ごつごつした岩石がのぞく、道とはいえない道を、 シリウスは私を担ぎ、ヘトヘトになりながら一歩一歩前進していく。 トンッ 今までの、でこぼこの地面から、急に平らな地面へと足場が変わる。 きれいに、岩が削られ平らにされた道。 そして、天井にはこの怪しい光の元。 照明装置なのだろう、ガラスのビンの中に、緑色の炎が燃えていた。 「ティアさん…これは…」 周りを見回し、驚愕の表情を浮かべるシリウス。 「…こんなの見たこともないわ。 なにかの施設かしら…」 平らな通路に、ぶら下がる淡い光を発するビン。 この不思議な通路は、奥に奥に続いているようだ。 「…シリウス、もうちょっとがんばれる? 先に進みましょう」 私は、シリウスの耳元でささやいた。 …もしかしたら、ここはあの男たちに関係があるかも… 私は、いても立ってもいられなくなる気持ちを抑え、冷静になろうと必死だった。 「ええ、いってみましょう、 何かの施設なら人もいるかもですし。」 シリウスは、私を抱えなおし、足を踏み出し始めた。 疲れでよろめきながらも、確実に一歩一歩・・・ トン、トン 長く長く続く通路に、重い足音が響き渡る。 もう、何分、同じように続く道を歩き続けただろう… 「あ! 通路の終わり!?」 ついに、通路の先に「何か」がみえた。 どうやら、そこから部屋のように広くなっているらしい。 薄暗い通路に、さらに強い、そして妖しい緑色の光が差し込む。 私たちは、その光の中に足を踏み入れた。 「きゃあ!? なによこれ・・・」 「うわ…」 そこで見たもの…それは… たくさんの水槽、それに満たされた緑色の溶液… そして、中に浮かばされたたくさんの実験生物としての人間の子供…。 否、元は人間だったというべきか。 ゴポゴポゴポ… 水泡が浮かんでは消える…。 こちらの水槽の赤い髪の少年は、腕に大きな、禍々しい爪がはえていた。 隣の水槽に浮かばされた緑の髪の少女は…下半身が異形のものとなりはてていた。 その、少女が見つめる先には…頭が二つある少年…。 吐き気を催すような、狂気の実験場。 そこで、人ならぬ身のものは生み出された。 「ひどい…、みんな人間よ!? だれがこんなこと…」 私は、水槽の隣におろされ、それを見上げていた。 水槽に触れている両手が、小刻みに震えている。 中に浮かんでいる少女と目が合った。 虚ろで、白い瞳を持つ彼女…。 みえているのか、みえていないのか… ただ力なさげに、妖しい緑の水の中に浮かぶのみである。 …不意に、怒りとともに涙が出てきた。 こんなひどいこと…許せないわ…。 この子達は、なにもわかっていない、まだ目覚めてもいないのかもしれない。 知らない間に、異形のものにされているなんて… 可哀想、ほんと酷すぎるよ… ぶっつぶしてあげる、この子達をこんな目に合わせた張本人を…! 「シリウス! この子達をこんな目に合わせた人…つぶしにいきましょう!」 私が、先ほどから背を向けて黙っていた彼に、そう語りかけたときだった。 「わぁあああああああ!!」 突然、シリウスの叫びが、研究所の空気を震わせ、響き渡った。 水槽の水が、小刻みに震える 「シリウス! どうしたの!?」 私は、動かぬ右足をひきずりながら、彼へと歩んでいった。
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