WILD CRUSHERS 〜悪の真意〜


一方、四人も、

同じ依頼を受けた連中を捜してみるしかないとの結論に達し、

同じ依頼を受けた人物を捜しにかかっていた。

しかし、見つかった何人かはやはり盗難に遭っていて、

リーシャと同じくらいのことしか知らなかった。

町の入り口の、人の少ないところで休む一行。


「この町はスリや強盗が多いですからね」

驚くよりも、むしろ走り回らされた疲れで呟くハーレー。

「どうしてそうやって人の物ばっかり盗るのッ?! 信じられない…」

立て続きに聞く盗難情報に頭を痛くするリーシャ。

「生産力のないものにも生活は必要だからな。

生産力のあるものから奪うしか生きていく方法がない者もたくさんいるさ」

当たり前のことを言うジャック。

「自分に生産力がないのなら、それに代わる仕事をすればいいのよ。

現に偉い人なんてみんなそうでしょ?」

一見当たり前のように聞こえてしまうことを言うリーシャ。

彼女はまだ知らない。

まともな治安のある世界ならともかく、

こんな世の中では偉い人と呼ばれている人間ほど、実のところ仕事などしなくていいのだ。

親の代から世襲した権力が、生活のすべてを保証してくれる。

「偉い人・・・・・・ねぇ」

それまでずっと地面に座って二人の話を聞いていたシーザーは、そう言うと静かに立ち上がった。

ジャックは珍しくシーザーの台詞から好戦的なものを感じ取り、

制止の視線を送ったが、シーザーが引き下がる様子はない。

「権力を乱用して生産力のある者から物を取り上げるしか能のない連中が、偉いと思うか?」

「よせ。ここで言ってもはじまらない」

ジャックは、今度は口に出して制止したがやはりシーザーは止まらない。

「何が言いたいの?」

リーシャはこの時、今までずっと常識だと思っていたことが覆されようとしているのを、肌で感じていた。

「結局、王なんて言っても権力で臣民からものを奪っている賊にすぎないんだぜ?」

「それは・・・・・・」

そもそも病の王を玉座に据え続けている時点で国としては最悪だ。

病気の人間は判断力も鈍る。

最高指導者が病気というのは国そのものが病気であるのと同じことだ。

「暴力で奪うか、権力で奪うか、形が違うだけのことだ」

「・・・・・・」

リーシャの冷えた心臓を、見えざる手が静かに締め上げていく。

「現に、王がいるからと言っておれ達の生活に何の影響がある?」


シーザーの発言がもしジャックとハーレー、

そしてリーシャ以外の者に聞こえていたら彼は反逆罪でお縄につくことになる。

この国に言論の自由は保障されていない。

それが、王がいることで彼らの生活に影響することだ。

「そうかもしれない・・・・・・

偉い人なんて言っても、正義とは対極に位置するところに生きている人たちかもしれない。

でも、きちんとまともに働いて生活をしている人たちだっているッ!

権力でそういった人たちから物を奪う人は悪かもしれないけれど、暴力で奪う人も結局は悪なのよ」

「なら働くことの出来ないやつは餓えろってか?

悪だ正義だって言うが、そんなもの誰が決める?

世の中がそんなにくっきり善と悪にわけられると本気でそう思うのか?

人間誰だって自分のしていることが全面的に正しいなんて思っちゃいない。

だけど自分が悪だと認められるほど人間は強くないからな。

結局なんだかんだと正当化しようとする」

そしてそれのサイズが大きくなった物を戦争と呼ぶ。

 何が正しいのか。

 何が悪いのか。

この世に絶対的な悪など存在しないし、また絶対的な正義など存在しない。

重い沈黙が鉛のように肌にまとわりついて、彼らのいる空間を威圧した。

その時だった。

一人の戦士が、何かに怯えたように彼らのいる所へと走ってきた。

「おいおい空気を読めよ」

と、シーザーが勝手なことを呟くが、むろん相手の知ったことではない。

見るからに駆け出しのその戦士は、四人に何かを訴えようとしていた。

だが、その前に木々の間から凄いスピードで飛び出した人影が戦士に斬りかかる。

反射的に戦士の前に武器を構えて入るジャック。

それに気づいた人影はジャックをかわして後ろから回ろうとするが、ジャックもそれに合わせて動く。

そして金属音を立てて、二人のダガーが交差する。

力の不利を一瞬で悟った相手が後ろに飛んで、ナイフを投げようと構えて・・・・・・

そこで何かに気づいて動きを止めた。


 時間にしてわずか数秒ほど。


とっさにハーレーとリーシャのガードに入ったシーザーはともかく、

ポチョムキン含むハーレーとリーシャは何も出来なかった。

仕方のないこととはいえ、ハーレーとリーシャは情けなくなるのを感じる。

そして動きの止まったジャックと、飛び出してきた金髪の盗賊は、

「シンシアッ?!」

「ジャックッ?!」

二人で同時に叫んで、その後、声を揃えて

「どうしてこんな所に・・・・・・」

と、呆れたような口調で呟いた。

そしてかなり間をおいて最後に

「知り合い・・・・・・?」

鳩が豆鉄砲をくらったような顔で呟いたシーザーが、ものすごく間抜けだった。



シンシアと呼ばれた金髪の盗賊は、とりあえず武器を納め、状況を説明し始めた。

シンシアは、エルネストの恋人のアナスタシアという人から依頼を受け、

彼を止めるのを手伝って欲しいと頼まれた。

「止める?」

物騒な言葉に眉をしかめるリーシャ。

「そのエルネストって人は、親の代から受け継いだ宮廷内での職をこなせるだけの能力がなかったらしい。

まぁ、これはアナスタシアさんの評だけどね。しかし、職を失って路頭に迷うのは嫌だ。

彼なりに葛藤はしたみたいなんだけどね。そして彼は最悪の結論を出した。

つまり、贈賄、麻薬の売買、部下の給与金の横領・・・・・・

などなど、なけなしの努力と才能を変なところにつぎ込んだ。

彼も必死だったみたい、恋人や病気の姉を養って行く為には仕方がないって、

正当化までして悪事を続けた。」

「姉思い、恋人思いの『いい人』じゃないか」

辛辣な嫌み炸裂のジャック。

リーシャはかなりショックだったに違いないが、

辛そうな顔一つせず、ただ黙ってシンシアの話を聞いている。

そして続けるシンシア。

「そゆこと。ところが、心配をかけないために姉にも恋人・・・・・・つまりアナスタシアさんね。

にも内緒にしていたはずの悪事がバレた。慌てて口止めしようとしたが、時既に遅し。

彼の姉は悩んだ末、スオミにいる婚約者に相談してしまった後だった」

「おいまさか・・・・・・」

徐々に事態は洒落にならない、最悪の方向へ進んでいるのを感じ取るシーザー。

「姉はその後、謎の病死。彼が手を下したかどうかはわからないけど・・・・・・。

アナスタシアさんは、彼が姉の婚約者だった人物を消そうとしているのを知って、

止めようとした。下手をすれば自分も彼に殺されるのを覚悟の上でね」

もっとも、私の目の黒いうちはそんなことはさせないけど・・・・・・と、内心付け加えるシンシア。
「そこの子・・・確か・・・リーシャだったっけ?

あなたが届けようとしていたメダルはね、

宮廷魔術師によって作られた・・・・・・わかりやすく言うと、爆弾の一種よ。

まぁ・・・爆弾といっても魔法発火装置みたいな物で、メダルがスオミに入ると町ごと・・・・・・」

そこから先はあえてシンシアは言わなかった。

今まで後ろでずっと話を聞いていた戦士が慌ててメダルを捨てた。

彼も同じ依頼を受けた駆け出し君だった。

「そっか・・・じゃ、私あなたにお礼を言わなきゃいけないのかな・・・・・・助けて貰ったんだもん」

どんなに頑張って表情を作っても、震える声がリーシャの心情を物語っていた。

信じていた人は最初から自分を殺すつもりだった。

人から物を盗っていた人が、自分を助けてくれていた。

彼女はだんだんわからなくなっていた。

何を信じていいのか・・・・・・。

そんな彼女をあえて無視して、肝心なことを確認するジャック。

「で、シンシア。メダルはすべて回収したのか?」

「それが・・・彼が依頼した人間を片っ端から調べてメダルの回収に当たったんだけど・・・

正確な人数はわからないのよ。

エルネストって人、依頼する相手にゲートも渡していたみたいだから・・・・・・もうあまり時間もないし」

「まずいな」

というか、かなりまずい。

一つでも回収し損ねると意味がないにもかかわらず、回収漏れのある可能性があまりに高い。

最悪の場合、もう既に・・・・・・。
「・・・・・・許せない」

ぼそっと小さく。

だが確実に怒りのこもった声がした。

「「「「へ?」」」」

目を点にする四人。まさかもう復活したのか・・・・・?

「人の信頼を裏切るなんて・・・・・・ぜっっっっったいに許せないッ!!」

リーシャはこの程度で負ける人間ではなかった。

むしろ前よりパワーが増大したような気さえする。

おいおいおいおい、と焦りまくる三人の盗賊を残し、彼女はゲートでスオミへと飛んでいった。

たまたま隣にいたハーレーがすかさずリーシャの足下に浮かんだ魔法陣に飛び込んだが、

リンクと違い、もともと一人用の移動アイテムではそれが限界だったようだ。

唖然とする盗賊達の間をぴゅぅ・・・・・・と乾いた風が吹き抜けていった。

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続く (投稿回数10回突破ッ! 読んでくださっている方々、有り難う御座います)