リレー試作品小説 その9


「げほげほげほっ」
のどの中に雪が入ったのか、蒼は咳き込みながら這い上がってきた。

「ったく。よくよく考えれば当たり前じゃねェかよ」
ぱっぱっと雪を払う。

「だな。まあ、敵は全部殺れたから問題はないだろ」
ハーデスもいつのまにか横にたって雪をはたいている。

「ぎー。むぎー。ぎー」
二人の足元からうめき声。ん? と二人が視線を下にやると。

「あ、ハーレーか。元気か?」
「元気なわけ…ないじゃないですか。いいから重いんですからどいてください」
「そうか」
ハーデスが素直に足をどける。

「蒼さんもっ」
「踏んでたか?」

半分以上雪に埋もれた体を何とか抜いて、ハーレーは立ち上がった。

「ええと…途中から意識なかったんでわからないんですが…なんでこんな状況に?」
上を見上げると木の枝に積もっていた雪は全部なくなり、枯れ木が姿をあらわしている。

「まあ、よくあることだ。さて、お前。なんて名だ?思わず戦いたくなるくらい強いじゃねえか」
「…その武器持って俺が誰だかわからないのか?」
「? 何のことだ?」

「……。まあいい。俺は蒼だ。昔騎士団にいた知り合いがいるから知ってると思っただけだ」
「そうか」

「あの…お二人さん?」
「あ?」 「どうした?」

「ここからどうやって帰るんですか?」

一瞬流れる空白。

「あ」

「あれ? 皆さん何やってるんですか?」
「何って…パーティの準備だよ」
「あれ? あれれ? ぼく何してたんだっけ」

ディカンが不思議そうに首をかしげる。
紅が色紙で作ったリングを天井に飾っているところに、ヘルギアがやってきた。

「…紅」
「? なんですか、ヘルさん」

「あんた、ディカンにあれ混ぜたチーズ食べさせた?」
「ですよ。だからあんなだったんですよ」

「…わかったわ」

先ほどまでのディカンの様子。…まあ、わざわざ描写することもあるまい。

「いいから手伝って、ディカン君」
いまだ生傷が絶えていないミレル。相変わらずあれ以来謳華師匠のしごきを受けているらしい。

「わかりました。ぼくは何をすれば?」
「とりあえずこれやって」
「わかりました」

「さて。ハーデス、お前じゃリンクとか持ってないのか?」
「…聞くまでもないという言葉を知らないか? パターンだよパターン」
無いということか。

「三人集まれば文殊の知恵なんていいますけどね…」
「お。あんなところにピンキオがいる」
ハーデスが槍を持って立ち上がった。なぜか二人はびくっとなり後ずさる。

「…どうした、お前たち? ピンキオなんだから倒したほうがいいだろ」

「い、いえ…」
「俺は遠慮しておく」

相変わらず、くぴ? と首を傾げハーデスのそばを通り過ぎる。あっさりとその命を奪い。

「お、雪包みか。カレワラ名産だな」
「…まあ、普通はああだよな」
「……モノボルトなんて唱えませんよね?」

どごおおおおん

三人の後ろの地面が爆発する。雪が蒸発し、水蒸気が立ち込める。

「……」
「……。えっと」
「アンディアスモンブリングか? こんなところに。ピンキオしかいねぇじゃねえか」

「……」
「―あの、ハーデスさん」
「なんだ?」

こちらを振り返った瞬間。くぴ、といいながらピンキオがモノボルトを打ってきた。

「…またかよ」

妙に諦めのこもった蒼の声が闇に響いた。