リレー試作品小説 その7


「……」
「……」

ドアの中は一面のお花畑だった。

「こんなところ、ありましたっけ…?」
「いや、ないだろ…さすがに」

お星様とうさぎさん。なぜか風景に微妙にマッチしている二人。
「どーすんだよ、これ…?」

今入ってきたドアは瞬間的に空色に変化して消えてしまった。
広がるのはただただお花畑。

「とりあえず…道があるみたいなのでそれに沿って進みましょう」
「だな」

蒼とハーレーは目の前に突然現れた小道に沿って歩き始めた。
多分、彼らは忘れていたであろう。ここに板の力で飛ばされたことを。


二人の男女が腹を抱えて笑っている。

「さいこうっ! 久々だわこんなに笑ったの」
「さて、僕はこのあとの世界を作っておかなきゃね」

実は彼ら、ただ狭い部屋をうろうろしているようにしか見えない。
つまり、お星様やうさぎさんやらお花畑やらは全部、幻想。

「次は何にするんです?」
「そうだね。これでも放り投げてみるよ」

板の手にあったのは街角に立っていたピンキオだった。
「ぽいっと」

二人の目の前にピンキオが落ちる。首をかしげながら二人を見上げているピンキオ。
もちろん、蒼たち二人にはそう見えていなかったが。


「暑いですねぇ…」
「着ぐるみなんか着てるからな…」

春の気候とはいえさんさんと照りつける太陽の下、いつもの服装の上に
さらにふかふかの着ぐるみを着ていれば暑く感じられるに決まっている。

「しかし、なんかとても平和な風景ですね」
「だな」

一瞬ここで過ごすのもいいかな、なんて危険な考えが蒼の脳裏をよぎった。
急いでそれをかき消すように頭を振る。

「どうしたんですか?」
「いや、気にするな」
ごまかすように視線を前方へやると、一匹のクリスマスペンギンが。

「―え?」
「ピンキオ?」

二人はお互い不思議そうな顔をする。

「くぴ?」
ピンキオのほうも不思議そうな顔をして首をかしげる。妙にそのしぐさがかわいい。

「あ! わかりましたよ,蒼さん」
「なにがだ?」
「きっとこいつを倒すと、ここから出られるアイテムを落とすんですよ!」

ピンキオだけに、そういう謎なアイテムを落としてもおかしくはなさそうだ、と蒼は思った。
(そういえば、一時期福袋なんか抱えてたなこいつら…)

「だな。とりあえず俺はこれだからおまえが殴れ」
「え!? ぼくがですか?」

「当たり前だろうが。この星でどうしろッてんだ?」
ひらひら、ととがった先を振る蒼。

「…むー。わかりましたよ。…えいっ」

ぽかっ

「くぴ!?」
「え?」
「くぴぴぴ!」
「うわぁあ!?」
「くぴー!?」
まるで怒っているかのような叫び声を上げるピンキオ。

「うひゃあああ」
混乱しているハーレー。隣で蒼が冷静に考えている。

「そういえば…こいつ混乱させてきたな。精神安定剤は…っと」
がさごそと荷物をあさる蒼。

「…まあな。こういう展開だからちょうど切らしているんだろうとは思ったが」
あきらめきれずバッグのそこをあさる蒼。

「あ」

手ごたえがひとつ。引っ張り出すと視力回復薬。
妙に腹が立ってビンの角をハーレーの頭に向かって投げつけた。


「ふう。びっくりしましたよ」
「まあ、な。とりあえず早く倒せ」

「もう,人使いの荒い。それじゃまるで誰かさんといっしょじゃないですか」
「あァ?」

すごんでみるお星様。その瞬間。

ずどん

「…」
「…」
「…くぴ?」

怒りを納めたのか、落ち着いているピンキオ。その手元から妙な光が放たれたのを、蒼は確かに認識した。

「まあ,落ち着いて考えよう。こいつ、ピンキオだよな」
「…ええ。どこから見てもそうですね」

「この穴はなんだ?」
「今雷が振ってきて開きました」

「ちなみに今の天気は?」
「…晴れてますね。雷なんか鳴りません」

「…」
「…」

「もうひとつ聞くぞ。ピンキオって、雷(モノボルト)なんか唱えないよな?」
「…ええ、そりゃもちろん」

そう言う二人の目の前で、ピンキオの袋に魔力が集中しさらに威力の高い雷が振ってきた。
「ぎゃあああああ!」
「逃げろッ〜」