第5話 蒼さんは地面に横たわっていた。 すわ死んでいるか、とか思ったけれど、近づくとむっくりと起き上がった。 「大丈夫か?」 「…まァな」 とは言うものの、蒼さんの全身は傷だらけだった。 すぐにそばに跪き、紅さんはホーリービジュアを唱え始めた。 「途中であいつらの発生が止まったのは、何だったんだ?」 「ああ、例の封印してた石っぽいものを見つけてな、一応止めてきた」 「…にしてはカプリコのやつ、沸かないな」 「まあ、自然発生するわけでもないだろうから、しばらくかかるんじゃないかな。 とりあえず、ヘルさん達が戻ってこれるまで待っていよう」 その言葉を聞き、再び横になる蒼さん。 傷を治してもらったとは言え、疲労は抜けないのだろう。 周囲に目をやれば、モスエリートの死骸が山のように転がっている。 「紅さん紅さん」 ぼくはふと気になったことを思い出した。 「ん、なんだい? ディカン君」 「さっきの戦士の一味って、どうするんですか」 「ああ、勿論ただじゃすませないけどね。 でも、ぼくよりも、あっさりと罠にかけられたヘルさん達のほうが、ぶっちぎれてそうだからね。 あの人たちの到着を待ってからにするよ」 なるほど。 「板さんがいなかったから残念だったけどね…。 久々に伝説の四人組(レジェンド・カルテット)が見れるものかと思ったのに」 伝説の四人組? 板さんとヘルさんと…? 男は気絶していなかった。 戦士特有の厚手の鎧が、紅の拳の衝撃を大方押さえ込んでいた。 彼を襲った三人組の気配が消えたことを察知し、男はむっくりと立ち上がる。 「…ハはは」 力ない笑い。 彼の脳内には、見張りに行く前に言われた言葉が思い出されている。 (アレを止めたら、貴様の命はないと思え。封印を再びされるくらいなら、破壊しろ) 何かに操られたかのように、男は剣を振り上げる。 そして、問答無用に ―石が、破壊された。 紅さんから先ほどの話を聞いていた蒼さんが、突然立ち上がった。 「どうした、蒼?」 「…まずい」 視線の先を追うと、うわ。 倒れていたはずのモスエリートが、再び起き上がる。 「ミレル!」 「はい」 復活したとはいえ、瀕死状態には違いない。 ミレルさんの岩石大爆発(メガ・スプレッドサンド)で、再び地に落ちていくモスエリートたち。 「蒼? おい、どうした」 「…くそ。ミレル、ディカン、さっきの男とやらを追って黒幕を突き止めろ。紅、こっちだ」 「な―」 誰の呟きだったか。 間違いなく、先ほどのモスエリートの大群よりも、悲惨なことになった。 「なんで、こんなところにデムピアスが―」 いつもなら卵―エギィを召還するタイミング。 そのときに、あたりでいっせいにモスエリートが沸く。 「おいおい、蒼。どうするんだ、これ?」 「知るか。とりあえず、倒すしかねェだろ」 二人は、ミレルとディカンがいなくなったのを確認し、デムピアスに対峙した。 「追っては…こないみたいですね」 ぼくは後ろを振り向き、何もいないのを確認する。 「だろうね、と―こっちかな」 ミレルさんが先ほどの丘のところへと向かう。 「な―」 地に倒れ付した男と、砕け散った封印石。 そして 「誰だ、あんたらは」 謎の集団が、男の周りに集っていた。 「ひとり、か。よくやった」 集団のひとり、代表らしき男がぼくの向こうに視線をやり、そう言った。 向こう? 「へ?」 「ごめんね、ディカン君。殺されはしないよ」 その言葉とともに、とんできた石礫(スプレッド・サンド)がぼくの後頭部を直撃し、 ぼくの意識は闇へと帰っていった。
![]()
![]()