第3話



「解体殺人?」

「ああ、らしいよ。てかさ、解体殺人って言えばさ。聞いたことないか?」

「え? いや、そんなこと無いけど。お前、知り合いにでもいるのか?」

「まさか。いやほら、2年くらいまえにさ、確かなんか似たような奴いなかったっけ」

「ああ、なんか人類最悪とかいわれてた奴だろ。というかもう忘れていたよ」

「まあな、所詮犯罪者のことより俺たちはお宝の情報のほうがいいしな」

「そうだな。そう言えばその、人類最悪はどうなったんだっけ?」

「さあ。聞いた話によれば、あいつを止めた奴と組んで何かやってるらしいよ」

「へー、それは知らなかったな。というか意外だな」

「なにが?」

「ほら、勝負とかで負けたら自害するってのが、悪党っぽくていいんじゃない?」

「なるほど。でもそれ、ただ単に勇気がなかっただけじゃないの?」

「はは、かもな。ところでその止めた奴って誰なんだ?」

「詳しい名前は知らないけど。

あの当時、人類最悪に呼応してかどうかは知らないけど、

大陸最低、なんて自分で名乗っていたやつらしい」

「大陸最低? マイソシア大陸の?」

「だろうな。それ以外どこがあるってんだ」

「いや、それだったらどんな奴だろうと思ってさ」

「ああ、最低なんていわれるくらいだから、大してすごくなかったんじゃないの?」

「でも最悪に勝って、って言ったじゃんか」

「じゃあ、最悪もたいしたことが無かったんじゃない?」

「ははは。かもな。実は見掛け倒しとかで」

「ははははは──」

サラセン町の中央の広場。

露天商と狩りに行く適当なパーティを探している冒険者たちでごった返している。

ざわめきが絶えることの無い場所。

まあ、一ヶ所の会話に耳を傾ければ、当然こういう結果になる。

「らしいぜ、意気地なしな上に実は見掛け倒しクン」

隣に立っている彼の言葉にも耳を貸さず、

男は目の前の商人に金を払い、ゲートを二個買う。

「──まいど」

無言で片方を渡し、男は相方を無視して先を進む。

「つれないね、お前も。
もう2年もたつんだから、いい加減僕の調子に付き合ってくれてもいいんじゃない?」

「……」

「はぁー」

わざとらしいため息。

「ま、いいや。で、まじめな話、そろそろどうにかしないといけないっぽいね」
「あぁー、だな」

「で、お前はどうすんだ?」
「知るか。結論が出ていることを俺に決めさせるな」

「まあまあ。それじゃいつもと同じじゃないか。君の口から積極的な言葉を聞きたいんだよ」
「黙ってろ。おまえの顔でそういうこと言われると洒落になってない」

ちなみに絡んでいるほうの男は紅月読(あかいつき)と言い、

それを相手しているほうを、蒼─過去人類最悪とまで言われた男、だった。

「まあいいか。どうせ大した事無いだろ。僕は情報集めてるからお前は適当に準備でもしていてくれ」

そう言うと、紅は蒼から受け取ったゲートを使い、カレワラ町へと旅立った。


「ひ、ひい」
「……」

完全に腰が引けている盗賊を追って、私は闇の中を駆け抜ける。

「た、たすけ──て」

調子のいい、とはこういうことを言うのだろう。

数分前に囀っていた言葉をもう一度聞かせてもらいたい。

「お、俺が、俺が悪かったから。もう手出しはしないから──い、命だけは助けてくれ」

耳障りな懇願が、私の脳内を駆けずり回る。

五月蝿い五月蝿い煩い煩い煩いうるさいうるさいウルサイウルサイ──。

「黙れ」

私は言葉とともに剣を振り下ろす。

「やめてくれ──、さいあ」
断末魔の悲鳴すら聞かず、私は命を断ち切った。

「……」

こんなことではもちろん癒されない。

もう何人目かを数えることすらやめた。

何人も何人も何人も。

この手で斬り殺し解体し。

回想などと、馴れない行為に耽っていると。

ふと、さっきの男の焉わりの言葉を思い出す。

「さいあく?」

そう言えば、何人か前に斬ったパーティも、

その前の連中も、そのようなことを言っていたか。

そう、それは確か──

「人類最悪の、殺人鬼?」


それから数日。

確実に事態は進行していた。

「昨日で20人目か」
「え?」

情報にかけては左に出るものはいないと自負している紅が、その話に驚いたように蒼を見た。

「何だ? お前、この程度の情報を知らなかったなんてことぬかす気はないよな」
「いや、まあさすがにそれくらいは知ってるけど」

声を潜めて蒼に告げる。

「何でお前が知っているんだ? 一応、この話は極秘だったはずだぞ」

「ルアス王宮の前に張り出されてたぞ。ついでに、賞金も。

一括払い生死問わず(デッドオアライブ)で1000万G(グロッド)だ。

なんだかこの話を聞いてますますルアス王の病状が悪化したらしくてな。

心配した配下の差し金らしいが──」

「へぇ、とそれはまずいな」

「ああ、すでに何組かのパーティがもう探しはじめていたぞ。で、」

妙に鋭い目つきが、紅の表情を捉える。

「お前のことだからすでに場所は把握済み、だよな」

「もちろん。場所はサラセン森。より具体的に言えば──サラセンとルアス、両方の町の中間地点だ」
「ほう。そこまで分かっているか。さすがだな。じゃあ、早速向かうぞ」

「まあ待てって。慌てる平民はもらいが少ないらしいっていうだろ。

わざわざ歩いていくことも無いさ。知り合いの魔術師さんに、あそこの近くまで運んでもらう」
「知り合いの魔術師……って、まさかあのいけ好かない野郎か?」

「板さんをいけ好かないやろうね……。まあ君らしくていいけどね。アレでも一応有名人なんだよ」
「知るか。俺は嫌いなんだよ、ああいうタイプはな」