第15話『回想(かいそう)』 暗い闇の中を落下していく感覚がする・・・・・・。 ユウトは、上下の感覚も分からない闇の中を音もなく落ちていく・・・・・・。 (こわい・・・・・・。どこまでまっくらな中をおちていくんだろう・・・・・・。) まるで底すらないように感じる程の深い闇。 (でも、これ以上。下には、おちたくない!!) 怖さに思わず目をつぶりながらそう思った。 その途端に落下が止まった。 (え?)おどろいて目を開けると、周りは大きな空間だった。 「キィ・・・・・・キィ・・・・・・。」 近くで音が聞こえる。 ユウトは、音のした方に振り返った。 そこにあったのは、大きな鏡台。 そして、その鏡台にはなにかが見える。 おそるおそる、ユウトは鏡台の方へ歩き出した。 そこに映ってたのは、保育園のころのぼく。 「やーい、泣き虫ゆーと!」ぼくは、いじめられていた。 (そう言えば、よくいじめられてたかも・・・・・・。)なんとなく思い出す。 その直後「てやっ!」と声が聞こえた。 いじめっこに背後から誰かが頭をすったたいてる。 「いてて!ゆーや、なにすんだよっ!」 いじめっ子が怒って、目の前の子供にたたきかえそうとした。 「まったく。せんせーに言うよ!」 『ゆーや』と呼ばれた保育園児は、いじめっこに足払いをかけて倒す。 「うわーん!」と泣き出すいじめっ子。 「ゆーちゃん、ありがとう。」 とぼくは、ゆーやにお礼を言ったものの 「ゆーとは、すぐ泣くから『なきむし』って言われるんだよ。 だから、なるべく泣かないで『いいかえさないと』・・・・・・な?」 とゆーやは、由斗の顔を見てそう言った。 ・・・・・・ゆーやの顔は、由斗とそっくりだった・・・・・・。 「ゆー・・・や?」名前を聞いた途端に、ぼくは何かを忘れている気がした。 (なんだろう・・・・・・ゆうや・・・・・・この子、確か・・・・・・。) 鏡台に映る過去を見ながら記憶を思い出そうとした。 でも、思い出せない! 「思い出せないなら、手伝ってあげようか?」 いつの間にか背後から人の声がする。 (さっきまで誰もいなかったのに!)とユウトは焦った。 「だれもいなかっただって?笑わせるね。」背後で誰かが笑う。 ユウトは思わず振り向いた。 そこにいたのは、現実のぼくと同じ姿をした子供・・・・・・。 「久しぶり。そしてアスガルドの世界によく来たね。」 「ゆーやなの?」思わず、ぼくは質問した。 「そうだよ、ゆーと。僕は、『ゆうや』。西川健太の弟の・・・・・・ね。」 と『ゆうや』こと『裕也』は、答えた。 「ケン兄の?!」ビックリするユウト。 「そうだよ。」頷く裕也。 「え・・・・・・と。でも、何でここにいるの?まさかアスに閉じ込められた?!」 とユウトは、おろおろしながら訊いた。 「違うよ・・・・・・。」と裕也は否定した。 「え?え・・・・・・と。」と困ってるユウト。 その様子を笑顔で見る裕也の手に黒い光が集約していく・・・・・・。 「ユウト。」と呼ばれて裕也の顔を見たぼくは・・・。 次の瞬間に額のあたりに黒い光と手が見えて、意識が遠くなった。 「思い出させてあげるよ。真実を・・・・・・。ぼくのその後を・・・・・・。」 倒れて意識のないユウトにそう言い捨て、裕也はユウトの手をつかんだ。 その頃、ミルレス町。 皓(こう)は、ミルレス町の中を行ったり来たりしていた。 武器屋・雑貨屋・宿屋・薬屋・広場周辺をくまなく捜索した。 「やっぱいねーなぁ。」皓は、ごちた。 どこをどう探しても見つからないのだ。 「やっぱ、誰かに聞くっきゃねーかな?」と方法を変えて 「おーい。誰か『ユウト』っつー名前の修、見てねーかぁ?!!」 と皓は、叫んだ。 すると・・・・・・ 「『ユウト』?あー、昼間ごろこの広場にいたなぁ。確か。」 「見た見た。Lv1服の格好してた子だったわね。」 数人の目撃者が見つかった。 「マジ?!で、そいつはどこに?!」と訊く皓に。 「何か・・・・・・走ったり歩いたりしてたぞ、その坊主。おかしな行動だろ?」 「そうそう、私も見たわ。しばらく歩いたり走ったりしてて…。 確か。結構歩いてるなぁって思って見てたら、いきなり走り出して ・・・・・・なんて言うの?・・・・・・こう、フッ。と言うか、シュッ。と言うか・・・・・・。」 と言いよどむ女の人。 「???」と考えている皓。 「あ、そう言えば、あなた盗賊さんよね?思い出したわ、そう・・・・・・ インビジつかったみたく見えなくなっちゃったのよ。その子!」 と女の人は、やっと言い出せたことに安堵している。 「重要証言、サンキュ!」と言うと皓は、走り出した。 (修がインビジなんて使える訳がない) (そして、ユウトは何かに連れていかれたんだ。) 2つのことを確信して、皓は、エルの家へと走り出した。 少しずつ・・・・・・事態は、悪い方へと流れていこうとしていた。
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