In the Darkness


深い闇の中をどれくらい進んだろうか?
全員、手持ちの薬の大半は消費してしまっていた。
隊列の後ろを歩く魔術師は足取りが重くなってからかなりの距離を何とかつい
てきてはいるものの、今にも倒れそうなほど疲弊していた。
先頭を行く戦士たちも、表情にこそ出さないが疲労は限界に近いようだった。
杖を握る手にぎゅっと力が篭る。
自分にもっと力があれば、そう思えば思うほどに悔しさで涙がこぼれそうだった。

「ポータルがあるぞ」
先頭を行くリーダーの言葉で全員に緊張が走った。
「・・・もう、ここまでで十分じゃないか?」
リーダーは振り返って皆に問いかけた。
「俺たちは十分にがんばったと思う、いまの俺たちにはこれ以上は危険だ」
全員の疲労、予備の薬の量を考えれば当然の言葉だった。
「そうだね・・・悔しいけど・・・」
女盗賊がぽつりとつぶやいた。
無口な彼女が口を開いたことが驚きだった。
度重なる激戦の中で、彼女の的確な判断には僕も魔術師たちも何度も命を救わ
れた。体力のない彼女にとって、それは大きな負担だったに違いない。
「リーダーに従うわ」
「そうだな・・・次は万全の体制で臨もう」
魔術師たちが言った。
そのすべてを魔力に頼る彼らが全力で戦える回数はあとわずかだろう。
当然の答えだった。

しばらくの沈黙の後、戦士が口を開いた。
「俺は、この先に行きたい。この先に何があるか、自分の目で見てみたい」
「あたしも、この先を見たい」
戦士の言葉に修道士も同意した。
「無謀なのは分かってる・・・生きて帰れないかもしれないことも・・・」
戦士はそう言うと、リーダーにスオミリンクを投げて渡した。
「リーダーはみんなを無事に帰してやってくれ。もし、また会えるなら、
また一緒に旅をしような」
そう言って剣を鞘から抜いた。
「みんなごめんね。自分がどこまで通用するか、試してみたいから」
修道士もそう言ってナックルを強く握りなおした。
どこへ通じているか分からない魔力ポータルは、僕らの目の前で怪しく光を
発している。
それはまるで、僕らを深淵へと誘うかのように・・・

「本当にいくのか?これ以上は無茶だ」
聖職者としての僕の理性が、魔力の誘惑を振り払った。
戦士の背中に向かって言える、精一杯の静止の言葉だった。
「・・・ああ、勝手を言ってすまない。お前には感謝してるよ」
「死ぬかもしれないんだぞ?」
「俺は戦士だからな。強敵と戦って死ぬのなら・・・それも本望だ」
僕にはそれ以上彼を止めることができなかった。
彼は笑顔だった。

突然手元に放られたスクロールに僕は現実に引き戻された。
それはスオミリンクだった。
「リーダー・・・」
「すまないな、リーダー失格だ・・・みんなを頼む」
彼もまた笑顔だった。
「まったく・・・物好きばかりだね。カッコ悪くて帰れないじゃないか」
壁にもたれてやり取りを聞いていた女盗賊が前に進み出た。
「奥の様子を見てくるよ、いざとなればこの足で逃げ切って見せるさ」
いたずらっぽく笑う彼女に魔術師たちも続いた。
「そんな人数で死にに行くような真似はするなよ」
「知らないところで財宝を見つけられたりしたら、寝覚めが悪いわよ」
みんな、いつしか疲れを忘れたかのように笑っていた。

そうだ、あの時も・・・
僕は遠い昔を思い出していた。
ミルレスの神官学校を卒業して、初めて森へ出た日のこと。
森の遠くから聞こえる動物や魔物の声に恐れ、いつか自分の手で空白の地図に
ペンを入れてやろうと思っていたこと。
スオミの街へたどり着き、仲間たちと出会ったこと。
ルアスの街でリーダーと出会ったこと。
沢山の思い出とともに、自分の中で眠っていた探究心が目を覚ましたのだ。
いつしか、僕も笑顔になっていた。
「・・・みんなを置いて帰れるわけないじゃないか」
僕はリーダーにスオミリンクを投げて返した。
僕たちは一人じゃない。
戦いの中で、喜び、悲しみを分かち合う仲間がいる。
今までだってそうだったように、これからもずっと。

力強く斧をポータルに向け、リーダーが叫んだ。
「みんな、行くぞぉぉぉぉ!!」
「おぉぉぉう!!」
魔の巣食う深淵をも揺るがすほどの雄叫びが響き渡った。

そして・・・彼らはポータルの中へと飛び込んでいった。

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私はオープンβ開始当初からのプレイヤーです。
当時はまだ情報も出揃わず、何もかもが暗中模索でした。
50ヘルに突入し、それなりに歩き回れるようになった自分たちにとっても
スオミダンジョン18以降のマップは未知の領域でした。
ドキドキしながら慎重に進んで行ったことを今でもよく覚えています。
今でこそ珍しくなくなったスペル、スキルを手に入れるために幾度となく死線
を共にした仲間たち。
今となっては良き思い出です。
今回はその思い出を少しアレンジして書いてみました。

当時の仲間たちはほとんど課金し、いまでも楽しく狩りに出かけています。

皆様にも良き仲間との思い出がたくさんありますように・・・