自筆小説


そいつは突然やってきて―――
僕の、すべての常識を潰していった。


題名 「1/2の世界」

「是非、今のあなたの心境をお聞かせください」
なんて、胡散臭い営業スマイルと古めかしいマイクを片手に漆黒の翼を生やした彼女が、僕には何故か死神のように見えてならなかった。

突然訪れたそいつは、どうやら死ぬ間際に迫り、尚且つ本人もそのことを承知で生きている人間がどのような気持ちを抱えて生きているかを唐突に知りたくなり、その事をまとめて一冊の本にしてみたくなったらしい。
悪びれた様子も無く、手帳と録音テープ(何故か相当の旧式だった)をセットしていく彼女を見て、手ごろな所で見舞いの花に使われている花瓶を投げるべきか、それとも夕食で使ったばかりのナイフを投げるべきかを悩んだ挙句、そのどちらもが面倒だったので、適当に会話をして追い返すことに決め込んだのだった。
そのときは、まさか毎日来ることになろうとは思っても無かったのだが……

最初の内は、取材と言うよりも無駄な会話で終わった。
ただ、どうして就寝前の数時間を狙ってくるかがわからないので尋ねると、お忍びで来るのはこの時間が良いからの事。
窓から空を飛んでくるには夜中がベストだとか。
烏は夜目が見えないのでは?と聞いたら鋭い右ストレートが顔面に直撃、その日はそれっきりだった。

しばらくして、取材らしい取材が出来始めたのだが、それも取材よりも雑談が多いように感じる。
どうも、彼女は世間一般に詳しいと言うよりも疎いらしい。テレビの存在すらよく知らなかった。
……本当に新聞記者なのか尋ねてみたところ、殴るのは本人も痛いらしいので、心優しい(?)彼女は窓から放り投げる程度に済ませてくれた。
木の枝に引っかかり、何とか一命を取り留める。一階にいた何人かが巻き添えで失神して担ぎ込まれたらしい。
■階から人が振ってくれば、誰だって驚くだろう。僕も良く生き延びれたものだ。
後で、半ばヒステリック状態の看護士に散々理由を聞かれ、答えるのに悩む。いや、僕にどうしろと……

そこそこ時間がたち、彼女の対応にもなれてきた。
どうも、この世界のことに関してよく知らないらしい。八雲かこーりんなら知っていると言っていたが……
そんなので新聞記者が務まるのかと尋ねたかったが、僕も命は惜しいので聞かないように心がける。
気が付けば、最近は雑談だけで取材が無いような気がするが……大丈夫なのだろうか。
最近、彼女が最初の目的を忘れているような気がしてならない。
烏だから、鳥頭なのだろうか?そのうち確認しておこう。

彼女が来て数週間が経つ。
この日、初めていつも来ているはずの時間を越えても彼女は現れなかった。
飽きたのか、それとも今日は最初から来る気が無かったのか。どちらでもいいけど、気になることは確かだ。
昨日、取材の際に進行率を聞いたら答えてくれなかったが、何かあったのだろうか?
結局その日、彼女が来る事は無かった。

次の日、いつもよりも控えめな窓の開く音がして、血塗れになった彼女が入ってきた。
いったい何があったのだろうか。自慢の黒い羽が、見るも無残なほどにねじれ、折れ曲がっている。片方の羽は半ばから先が無くなっていた。
背中に無数の矢が突き刺さったまま放置され、歩く度におびただしい程の血が流れ落ちていく。どう考えても重症だ。
救急車を呼ぼうとして、ここが病院だったことに気が付く。
すぐに呼び出しボタンを押そうとして止められ、小さな小瓶を渡される。
何か話そうとしていたが、言葉に出来なかったようだ。そのまま倒れてしまう。
どうしたら良いのか悩んでいると、突然何も無かったはずの場所から誰かが這いずり出てきた。
混乱していたし、紫の服を着ていたこともあって、第一声におばさんと言ったのが悪かったのだろう。愛情のこもったビンタを受けて壁に叩きつけられる。
よほど打った場所が激しかったのか、立てずにいると、こちらの状況を無視して解説を始めるオネーサン(棒読み)。
真実と現実を待ったなしのノンストップで聞かされ、最後にこう尋ねられた。
「あなたはどうしたいの?」

僕は―――


−−−−−−−−−

気が付いたら、白い天井が見えた。
やけに布団の匂いが恋しくて、このままもう一度眠ってしまおうか―――と思った矢先に、珍しい声に呼び止められる。
八雲 紫……スキマから上半身だけ覗かせ、こちらを覗くその様はなんとも笑えない。
「えーりんから奪った薬の効果はどう?」
―――が、訳の分からないことを突然尋ねられた。
彼に渡したはずの薬の効果を、何故私に聞くのだろうか。どちらにせよ、答えてもろくな結果にならないので無視を決め込む。
どうやら、最初からすべて知っていたらしい。
珍しく、紫は諦めずに話を続けるので私は答えずに聞き流していた。と、思う。
……実の所、聞いてなかった気がする。
せめて葬式には出るべきだとか、着ていく服は何が良いなどとか、どうでも良いようなアドバイスを横に、私は頭の中が真っ白になっていくのを他人事のように感じていた。

ふと、ここが彼の病室であったことに気づく。
何度も足蹴に通ったのだ、忘れるほうがおかしいだろう。

あぁ―――そうか、道理で恋しいわけだ。
この香りは、彼の―――


 あとがき


えっと、あの、まず一言言わせてください。いや、本当にごめんなさい。

最初は「文のドキドキ外世界インタビュー」とか、蓮子とかと絡ませたりしたのを書きたかったのですが……いやぁ、どうしてこうなったんでしょうか。
全国の文ファンの皆様、申し訳ない。

なんというか、これって小説?なのかなぁ……小説にすらなっていないかもしれない。
うん、まぁ、なんというか色々スイマセン。

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